2つの「20世紀の偉大な建造物」の決定的な違い
これから2つの芸術作品の物語を語ろう。
1つは、シドニー港の岩がちな岬の上に立つ建物だ。シドニー・オペラハウスはヨットの帆や雲、鳥の翼を思わせる、優雅な白い曲面の屋根を重ねたデザインである。量産型の建物とは一線を画したこの外観は、見る者を高揚させる。
半世紀前の完成時、それまでのどんな建物とも違うその姿は、世界に衝撃を巻き起こした。オペラハウスはオーストラリアの誇らしいシンボルとなり、世界的名所となった。「人類の創造性を象徴する、まぎれもない傑作である」と、ユネスコの専門家による評価報告書は称えている。2007年にはタージマハルと万里の長城と並んで、ユネスコの世界遺産に登録された。存命の建築家による建造物が世界遺産になったのは、これが初めてだった。
2つめの傑作は、ビルバオ・グッゲンハイム美術館、アメリカの著名彫刻家リチャード・セラをして、「20世紀建築における最大の偉業の1つ」と言わしめた建物である。2010年の世界の主要な建築家と建築専門家を対象とする調査では、ほかを大きく引き離して、1980年以降の最重要建造物に選ばれた。
シドニー・オペラハウスとグッゲンハイム・ビルバオを、20世紀の最も偉大な建造物とみなす人は多い。私も同感だ。
シドニー・オペラハウスの設計は、1人の天才建築家から生まれた。彼の名はヨーン・ウッツォン。オペラハウスの国際設計コンペで優勝したとき、ほぼ無名の存在だった。
グッゲンハイム・ビルバオも天才から生まれた。真に独創的で、どんなカテゴリーにも属さない建築家、フランク・ゲーリーが設計したこの建物は、彼の最高傑作と言っていいだろう。
だがこの2つには違いがある。それも大きな違いだ。
シドニー・オペラハウスの建設は、正真正銘の大混乱に陥った。次から次へと問題が発生してコストが膨張し、当初5年の予定が14年を要した。総工費は当初見積もりの15倍を超えたが、これは1つの建造物として史上最大級の超過率である。さらに痛ましいことに、シドニー・オペラハウスはウッツォンのキャリアを破壊した。
対して、グッゲンハイム・ビルバオは、予算内かつ工期内に完成した。正確に言うと、コストは予算を3%下回った。また期待を上回る便益をもたらし、予算、工期、便益の3拍子揃った、希有な「0・5%」のプロジェクトの1つに数えられる。この大成功によって、フランク・ゲーリーは世界的建築家にのし上がり、その後も世界中のクライアントから依頼を受け、数々の傑作を生み出し続けている。
これらの対照的な事例から学ぶべきことは多い。