ネット取引の衝撃とトレーダーの復帰
──茂さんが株を再開された2002年にはインターネットでの株取引が一般的になっていました。
藤本茂(以下同) そやな。こんなにも株取引が効率的になったのかと衝撃を受けたんや。
──それまではネット取引ではなかったんですね。
僕が株をはじめた頃の売買は、証券マンが取引所の立会場で手でサインを出すことによって成立してたんよ。いわゆる”場立ち”と呼ばれる手法。1970年くらいには、東京証券取引所(東証)の立会場だけで2000人くらいの証券マンがいましたわ。
──すごい数ですね。
立会場で見ることのできるサインも個性的でおもしろくてな。銘柄を伝えるとき、たとえばNTT(日本電信電話)であれば「電話で話すしぐさ」をするんですわ。トヨタ自動車であれば「片手でカタカナの"ト"を書いてから両手でハンドルを握るしぐさ」。そのあと「買い」か「売り」かの合図と、株数と値段を表す数字を手のサインで示すわけや。よくあれで間違うことなく注文が通るもんだと思ったなぁ。
この”場立ち”は1999年に廃止されたのでもう見ることはできないけどな。ネット証券でしか取引したことのない若い人にとっては信じられない光景だと思うけど、あの頃はものすごく活気が感じられましたわ。
──確かにその光景を知っていると、ネット取引の登場は衝撃的ですね。
そやろ? それまでは株のよしあしも、証券会社の営業マンの話を聞いたりして買うしかなかったわけですよ。でも、それだと約定まで時間がかかるし、営業マンも自分の売りたい株しか勧めてこないからな。
それに比べてネット取引は効率的に売買ができて手数料も安いから、これは使わない手はないと思ったな。それで66歳のときに初めてパソコンを購入して、再び株式投資に専念することにしたんや。
──66歳でパソコンを買う行動力もすごいですね。
なにかをはじめるのに年齢は関係ないですわ!
──ペットショップや雀荘の経営など、藤本さんはさまざまな経験がありますが、そこまで株式投資にハマったのはなぜなのでしょうか?
単純に株は楽しいと思うし、なにより夢があるからなぁ。株はお金をかけて楽しむゲームの中で一番おもしろいですよ。
これまで麻雀、競馬、パチンコなどいろいろやってきましたが、僕は胴元に入るパーセンテージが高いギャンブルが嫌いなんです。その点、デイトレードは証券会社に数%の手数料を払えばたくさん儲けることができるからな。