プーチンの言葉を正当化することがロシア政府の判断の基礎
そんなプーチン独裁権力が究極的に極まり、事実上の「皇帝」となったのは2014年でしょう。ウクライナの政変への対処で、簡単にクリミア半島を手に入れ、ウクライナ東部でも親ロシア傀儡勢力の支配エリアを確立したプーチンは、ロシア国内で「ロシア系の同胞を救った偉大な指導者」として崇め奉られる存在になりました。
なお、プーチンは40代で権力者になった当初から、人々に軽く見られないよう、前述の強くてタフなリーダー像を打ち出してきました。独断で正しい行動ができる男らしい指導者という自らのイメージは、“皇帝”として絶対的なものになりました。
その後のプーチンは、すべてを自らの言葉で堂々と語り、絶対に選択は間違わず、果敢に行動するリーダーという偶像の路線を、頑なに守っています。それを崩すことは生涯ないでしょう。
したがって、ロシアの今後の動向を予測するうえで最重要なのは、皇帝プーチン本人の言動です。ロシアの客観的な政治経済・軍事状況とは関係なく、彼の言葉を正当化することがロシア政府の判断の基礎になっているからです。
5月9日、モスクワでは対独戦勝記念日の軍事パレードが行われましたが、その際の演説でプーチンは「私たちを脅かす者は誰も許さない。核兵器の運用部隊は常に即応戦態勢にある」と発言しました。すぐにでも使うと言ったわけではなりませんが、ロシアあるいはプーチン政権が危機に陥れば核使用することを示唆したわけで、自分の発言を絶対に撤回・訂正しないプーチンの言動としては、無視できない発言といえます。今後も彼の発言、とくに微妙な“言い回し”に要注目です。
文/黒井文太郎