日本の音楽史上で「最初のシンガー・ソングライター」が誕生

その頃の中村八大は第1回レコード大賞を獲得した『黒い花びら』(歌/水原弘)や『上を向いて歩こう』(歌/坂本九)などの作品をヒットさせて、作曲家・プロデューサーとして日本の音楽シーンに新風を吹き込んでいた。

中村八大の助力を得た丸山明宏が、総勢80名のオーケストラをバックに21曲を歌ったリサイタルは、1963年11月8日に東京大手町のサンケイ・ホールで開催された。

全作品を自らが書いた楽曲によるコンサートは、これが日本で最初のことだった。日本の音楽史の上で「最初のシンガー・ソングライター」が、その時に誕生したのだ。

作家の三島由紀夫は終演後、舞台裏でこう言ったという。

「君、大成功だよ。君の歌には土の匂いがあった」

歌唱に対する評価が厳しいことで有名だった中村八大が「天才歌手」と呼んだのは、丸山明宏ただ一人だけだった。

2022年9月7日発売『美輪明宏全曲集』(KING RECORDS)のジャケット写真。『ヨイトマケの唄』『ふるさとの空の下に』などを収録した美輪明宏の全曲集だ
2022年9月7日発売『美輪明宏全曲集』(KING RECORDS)のジャケット写真。『ヨイトマケの唄』『ふるさとの空の下に』などを収録した美輪明宏の全曲集だ
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こうして長く失意の中にあった青年による、音楽界に叩きつけた挑戦は成功した。

マスコミに同性愛者であることを公言することが、今よりも信じられないほどの非難を浴びた60年前の日本。世間からはキワモノと見られていた丸山明宏は、このリサイタルを機にシンガー・ソングライターとしての地位を確立した。

さらには俳優、タレント、演出家としても、独自の美意識で確固たる世界観を築き上げた美輪明宏は、様々な人との出会いから生まれた歌や芝居のエッセンスを自らの手で大切に育てながら、次の時代へ遺すことに、今も情熱を注いでいる。

文/佐藤剛 編集/TAP the POP サムネイル画像/左:2013年12月25日発売DVD『美輪明宏ドキュメンタリー~黒蜥蜴を探して~』、右:2021年11月17日発売『ヨイトマケの唄』(ともにKING RECORDSより)

参考・引用文献/美輪明宏『紫の履歴書』