堀田家がずっと提示してきた
LOVEのかたち
―― 小路さんは、愛って何なのかわからないとおっしゃいますが、どんな愛が心地いいのかっていう、そのテーマの追求に関しては、ずっと堀田家はやってきたと思います。一緒に暮らす距離感であったり、風通しであったり、おせっかいはあっても束縛しない、そういう愛の在り方を、堀田家の人々は物語の中で提示し続けてきた気がします。
そうですね。我南人じゃないけど、どんな生々しい事件が起ころうとも、そこでLOVEを忘れちゃいけないよねという。そこはきちんと僕なりに描いてきたつもりだし、そこは外さないように守ってきましたね。
―― 世の中の大抵のことはLOVEで解決できるって本文にありました。
そのとおりだと思います。大抵のことはね、LOVEと金がありゃ解決するんですよ。
――「キャント・バイ・ミー・ラブ」の歌詞の中にも、マネーという単語が繰り返し出てきます。愛はお金じゃ買えないと言いつつ、どうしようもなく煩悩としてありますよね。
うん、そうそう。あの歌も、愛は金では買えないと言いながら、でも金には力があるよと言っているようにも感じる。お金があれば、LOVEも大きくなるし、ないとちっちゃくなるんですよ。だから、LOVEを大きくするために金稼ごうって思うわけ。そこまで考えて歌ってるかどうかわからないけど、あれはそんなに単純な愛礼賛の歌詞ではないですよね。でもいろんな辛酸舐めて、やっぱり最後は……ということなのかな。
今の若い人たちは
仲間とのつながりを求めている
―― 今回で十九弾となるこのシリーズ。ファンの読者の方も一緒に並走してきているわけですが、研人も結婚して稼ぎ頭になっているし、あの幼かった花陽がもう結婚! と、世代交代も進んで、感慨深く月日の流れを感じるでしょうね。そういう読者からの声って、届きますか。
ええ、お手紙もありますし、X(旧Twitter)でも届いています。意外というか、この物語、読者層の幅がすごく広いんですよ。小学生から読んでいるという人もいるし、今現在、八十、九十のおじいちゃん、おばあちゃんから手紙が来たり、僕と同じ年代の人が、母が楽しみにしてると書いてくれたりね。この間、Xで見たんですが、花陽ちゃんと同い年で、花陽ちゃんが小学生の頃からずっと読んでるっていう子がいて、私はこの「東京バンドワゴン」に救われた、今の私をつくったのはこの物語だと書いてあって、ああこんなドラマで人生救われてる子もいるのかと思って。本当に作者冥利です。
―― やっぱりそれは堀田家の面々が織りなす物語の温もりがちゃんと届いているということだと思います。
そうですね、結局、ホームドラマの良さって、それぞれのことをおもんぱかって生きているというところだと思うんですよ。
家族って絶対ぶつかるときはあるし、アップデートされない人もいっぱいいる。血のつながりはあったとしても、一人の人間同士ですから、ましてあれだけ大勢一緒に住んでいたらぶつからないわけがない。やっていけなくてバラバラになっちゃう家族もたくさんいると思う。でも、一緒に生きてくんだから、それぞれ相手のことをおもんぱかって生きていこうよと少しでも思えれば、血がつながっていようがいまいが、家族をやっていけるよねということだと思う。
この家族の枠を広げれば、それは社会としての大きな枠組みですよね。一つの会社にしても、一つの学校のクラスにしてもサークルにしても、相手のことをおもんぱかって頑張って生きていこうやと思わないと、絶対どっかで壊れてしまう。壊れないように何とかやっていきましょうやというのが、本来、社会のあるべき姿だと思うんですよね。そうしないと社会って成り立たないし、戦争なり紛争なり、いろんなトラブルが起こってくる。そこをきちんと回そうよって頑張ってる人がいるから、国が成り立っている。その原型がホームドラマじゃないかって僕は思っているんですよ。
ラストシーンで、お父さんとお母さんが茶の間でお茶を飲みつつ、まあ、何とかなるかなとか言いながら、エンディングテーマが流れてしみじみとしたハッピーエンドで終わる。そういう枠組みがホームドラマであって、そこはきっちり守って書いていく。そこで少しでもそういうものを感じ取ってくれる人が増えていけばいいなと思ってます。
―― 今の社会、殺伐としているようで、そういう人とのつながりを求めている人はたくさんいるような気がします。
そうなんですよ。最近の若い人、十代でも二十代でも、仲間としてのつながりを求めてると思う。むしろ僕らが若い頃よりそういうつながりを大事にする人たちが多いと思ってます。だって、僕らが二十代の頃なんて、はっきり言ってひどかったですよ。ワンナイトラブとかラブアフェアとか、そんなのをばりばりやってたし。それを今の二十代の人に言うと、みんな「ひど~い」って言う(笑)。
だから、僕らが思ってる以上に、今の若い人たちってホームドラマ的なものを求めてるというか、好きな人っていっぱいいると思うんですよ。時代が変わっても、そういうつながりの在りようは変わんないよねというメッセージを込めて、これからも書き続けようかなと思っています。
「東京バンドワゴン」シリーズの既刊情報は、特設サイトでご確認ください。
https://www.shueisha.co.jp/bandwagon/