中国が「台湾は侮れない先進国だ」
かつて台湾は国民党独裁時代、原発への電力の依存度がフランスに次いで高く、世界第2位の原発大国と呼ばれていた。それが、東日本大震災の事故を受け、原発ゼロに舵を切ったのだ。
泉氏は外交官らしく、今回の台湾の震災対応を見てこんな外交効果を指摘した。
「台湾の地震対応を見て中国が恐れたんですよ。人命を第一にして、決して隠し事をせずにスピード感をもってことにあたった。北京のネットピープルはこれを見て『台湾は侮れない先進国だ』と恐れていました。
台湾に暮らす人に対する調査によると、自らのアイデンテンティーについて、自分は台湾人であると答えたのが6割、台湾人でも中国人でもある、が2割、あとが中国人もしくは無回答でした。この『台湾のアイデンティティーとは何か』というのは、政権にとって今後の課題でしょうね。1月13日の総統選が終わっていきなり震災に見舞われて大変ですが、台湾の人たちは成し遂げると思います」
1987年まで38年間、戒厳令下であった台湾はそれまで国民党外の人々の表現や結社の自由を奪い、反体制派の人々を投獄し、処刑を繰り返して来た。「正統中国は、大陸(中華人民共和国)ではなく蒋介石総統率いる我ら中華民国である」という歴史教育が続けられ、中国大陸侵攻が国是であり、台湾独立派は最も重い政治犯とされていた。
だが戒厳令解除後、無血での民主化に成功し現在に至る。それがなければ、半導体産業の始祖モリス・チャンも天才デジタル大臣オードリー・タンも生まれなかったであろう。民主化あればこそ、透明性あればこそ、国の繁栄はなされる。ここから、学ぶべきものは少なくない。
文/木村元彦