共同親権のせいで修学旅行に行けない?

「共同親権」導入を含む民法改正案が4月19日から参議院で審議入りした中、反対署名は22万筆を突破(4月22日時点)。4月上旬まで8万筆程度だったことを踏まえると、驚異的な伸びである。この背景には、3月から4月前半にかけての衆議院での審議中に法案の穴がつぎつぎと露呈したことが大いに関係していると考えられる。

例えば、3月14日の衆議院本会議では立憲民主党・米山隆一議員が「手術日まで2〜3か月の余裕がある手術は、同居親が単独決定できる『急迫の事情』に当てはまるのか」を質問。これに対して自民党・小泉龍司法務大臣は「手術まで2〜3か月の余裕がある場合はこれ(急迫の事情)に当たらないが、手術日が迫ってきた場合はこれ(急迫の事情)に当たる」と答弁。

写真はイメージです 写真/shutterstock
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医療機関勤務の方であればすぐにわかるとは思うが、小泉龍司法務大臣の見解は現場の実態と大きく乖離している。昨今の医療逼迫も踏まえると、同意から手術日まで準備期間も含めて数か月を要するケースは多々あるだろう。また、手術日直前まで親の同意を得られるかわからない状況では医療機関が手術日決定(リソース確保)を避ける恐れもある。

つまり、手術日が延々と決まらず、単独決定可能な手術直前は永遠に訪れないジレンマに陥ることが容易に想像できる。法案は机上の空論ばかりで、現場の運用を全く考慮していないことを象徴する答弁と言える。
(*国会質疑で露呈した欠陥については筆者のtheLetter「3人に1人が不利益を被る共同親権。「離婚禁止制度」を超えて「少子化促進制度」になり得る危険性」(2024年4月9日)参照)

また、4月2日の衆議院法務委員会では立憲民主党・枝野幸男 議員が約18分間にわたって、同居親が単独決定可能な範囲にパスポート取得(≒海外の修学旅行参加)が含まれるか否かを徹底的に追及。その結果、法務省の竹内努民事局長は答弁中に自らの主張の矛盾をあっさり認めてしまうほど深刻な答弁不能に陥り、共同親権が理由で修学旅行に参加できない子どもが出る恐れを払拭できないことも明白となった。

(*この主な論点について筆者による図解を加えた質疑映像。外部配信サイト等で動画を再生できない場合は筆者のYouTubeチャンネル「犬飼淳 / Jun Inukai」で視聴可能)

そして、これらはあくまでも一例であり、審議中に判明した穴は他にもある。今回の「共同親権」導入を含む民法改正案はすでに衆議院を通過したとはいえ、多少の修正でどうにかできる代物ではなく、まだまだ議論の余地が山積みの法案といわざるを得ない。

文/犬飼淳