営業のライバルは芸人ではない
――1時間半、トークとネタでつなぐのは難しいのでは?
通常の営業だと、芸人数組でネタ+トーク込みの1時間などはありますが、そのときは1人で1時間ということで事前に打ち合わせをして構成も考えていたので、現場でさらに30分追加と言われても、正直できるわけがないんですよ(笑)。
そのイベントは複数の企業が出展している見本市だったので、もともとステージ用に考えていた1時間分の構成に加えて、それぞれの企業ブースに出向いて商品を紹介するコーナーをつくりませんか?とこちらから提案しました。
――提案や相談をしながら、できる方向に持っていくわけですね。
結果的にクライアントが喜ぶ提案ができて、お客さんにも楽しんでもらえたらいいので。
だから、営業は舞台の上だけが仕事じゃないんです。誰がどの役割で、僕の意見でどこまで内容が変えられるかを「構図」を見ながら判断する。じつは営業って、ライバルが芸人じゃないですから。
――ライバルは誰になるのですか?
営業仕事は、何社かのプレゼンがあって最終的に選ばれるものなんです。そのときの競合相手は、お笑いじゃなくてヒーローショーやグルメといった、ジャンル違いのものと戦っている。
そういう「構図」も理解できれば、クライアントが何を求めているのかがわかる。僕は舞台に立つ人間ではありますけど、半分は裏側から営業全体を見ることを意識しています。
――では舞台に立つ出演者として、実際のネタや振る舞いで気をつけていることはありますか?
ネタの内容よりも「八木に会った!」「ブラジルの人聞こえますかー!?バッグをもらった」と話のネタを持って帰ってもらうのが大事ですね。一緒に写真を撮ったり、実際に会話したり。
ルミネなど常設の劇場に来られる方はそもそもお笑いが好きなので、「あれが面白かった、これは面白くなかった」と批評感覚で舞台を見ていますが、営業に集まってくださったみなさんは買い物のついでだったりするので、「あのボケの構成、すごかった」とはならない(笑)。
――玄人向けではない、間口の広いネタやトークが必要ですね。
あとはどれだけシンプルな構成でやれるかです。例えばパソコンを使う芸だと会場の設備をあらかじめチェックしないといけないし、音が出なかったらどうにもならない。どんな環境でもやれるアナログな構造、つまりは身体ひとつでやれるネタにしておくことも大切です。