桃鉄、にゃんこ大戦争……社会科に苦手意識を持つ子どもたちにマッチ
さらに、2021年には『桃太郎電鉄でわかる都道府県大図鑑』が宝島社から刊行され、2022年に入ると『にゃんこ大戦争でまなぶ!47都道府県』がKADOKAWAから刊行されるなど、エンタメ地理学習本は多様化していく。
ハドソンの鉄道会社運営をモチーフとしたゲーム「桃太郎電鉄」シリーズ(最新作はコナミデジタルエンタテインメントから発売)では、プレイヤーは日本全国の駅を回って様々な物件を買っていくが「あれで都道府県と県庁所在地、各地域の特産物を覚えた」という人もいるものだから、ピッタリな組み合わせだ。
『にゃんこ大戦争』はポノスが手がけるタワーディフェンスゲーム(敵味方が相互に相手の城を攻め落とすことをめざすゲーム)であり、小学館の「コロコロコミック」でマンガ版が連載されるなど、小学生に人気が高いIPだ。そもそもこのゲームでは一番最初のマップが「日本編」と題され、各都道府県を舞台にねこたちが敵と戦うものだから、都道府県本をやってもそれほど違和感はない(ゲームではその後、浮遊大陸を含む全世界を舞台にした未来編、存在しない天体が山ほど登場する宇宙編、そして魔界編へと進んでいくのだが……)。
こうした人気のゲームやキャラクター、ブランドなどとコラボした学参は、2014年刊行開始の『「カゲロウデイズ」で面白いほど覚えられる本』シリーズ(KADOKAWA)、2015年刊行開始の『セシルマクビー スタディコレクション』や2016年刊行開始の『ボカロで覚える』シリーズ(いずれも学研プラス)などが先行して存在しており、2010年代中盤以降「ライト学参」と呼ばれて、学習参考書コーナーで一定の存在感を放っているものだ。
つまり『桃鉄』や『にゃんこ大戦争』は、エンタメ地理本とライト学参の掛け合わせで成立した企画というわけだ。
かつ、もともとは「中学受験に役立つ」という触れ込みでエンタメ地理本は生まれたのだが、『にゃんこ大戦争でまなぶ!』はライト学参のほとんどがそうであるように、かなり情報量が絞られている。中受を前提とした層向けというより、低中学年向け、ないしは社会科に苦手意識を持つ学力層向けの内容になっている。
このように、2010年代後半以降、都道府県の地理を学ぶためのテキストは娯楽色、ビジュアル要素が強いものも増えて学習のための敷居が下がり、中受向けから低学年向けまで多様化した。
ただ、刊行されたものをあれこれ見て感じるのは、1冊に47都道府県や全世界のことを詰め込むとどうしても「さわり」しか触れられず、情報量が少ないがゆえに逆に各地域のイメージがつかみづらい、ということだ。
もちろん、学びのとっかかりとしてどれかを1、2冊持っておくのは悪くない。だがそれ以上を求めるのであれば、実際旅行に行くかどうかはともかく、たしかに佐藤ママが薦めるように「るるぶ」や「まっぷる」を各都道府県別にパラパラとでも眺めるほうが、絶対に名所や名産品は頭に残る。それに、何より見るのが楽しい。結局、個別に読んだほうが学びにもなるのではないか。
日本全国や全世界で1冊の地理学習本を見ていると、コロナが収まったあとの旅行先を四六時中、検討したくなってくるのも問題(?)だ。……いや、そう思わせることこそが、旅行ガイド各社が出しているエンタメ地理学習本の本当の戦略なのかもしれない。
そういう意味では、小学生のお子さんがいない人もどれか1冊持っておくのも悪くない。全国の名所を1冊にまとめたものは、逆に旅行ガイドとしては稀有な存在なのだから。
取材・文 飯田一史










