保釈をめぐる日本と外国の司法制度の違い

潜伏先の離島から尾道水道を泳いで渡り、広島(本州)に上陸した野宮を指名手配犯だと見抜いたのは、ネットカフェのベテラン店員。店員はどうして、偽名を使って入店した野宮を怪しいと睨めたのか。北海道から広島、四国までひたすら足で稼ぎ、次から次へと繰り出される「事実は、小説より奇なり」のディテールは、まるで漫才のようだ。引き笑いから噴き出し笑い、苦笑、失笑のうちに読み進めると、終章では比較刑事法を専門にする王雲海教授(一橋大学大学院)を訪ねて、保釈をめぐる日本と外国の違いについてクールな解説を決める。

「まずはシンプルに、かつて日本を騒がせた逃走犯たちがどんな思いで過ごしていたか、何を食べていたか、どうやって捕まったのか。そういう、おもしろ情報を楽しんでもらえれば嬉しいです」

だがもちろん、書かれているのはトリビアだけではない。

「レバノンに逃げたカルロス・ゴーン元会長が、自分の味方を増やすために世界に向けてアピールしたせいもあって、最近は、諸外国から日本に対して『人質司法』という厳しい声も上がっています。

けれど、それは必ずしも米国や欧州の司法制度だけが正しくて、日本の司法制度が間違っているという意味ではありません。良し悪しの両面を含んだものなのではないでしょうか。そのあたりも、王教授や弁護士の先生方に色々と伺っています」

硬軟おりまぜた充実の内容、新書に巻かれた帯のフレーズにも納得である。

どうりで捕まらないわけだ!

取材・文/山田傘

#1はこちらから

逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白
高橋ユキ
『つけびの村』から抗い続けるノンフィクションゆえの不自由さ…『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』を読む_1
2022年6月1日
946円(税込)
新書 216ページ
ISBN:978-4-09-825425-5
「どうりで捕まらないわけだ」(道尾秀介)

自転車全国一周に扮した富田林署逃走犯、尾道水道を泳いで渡った松山刑務所逃走犯、『ゴールデンカムイ』のモデルとなった昭和の脱獄王……彼らはなぜ逃げたのか。なぜ逃げられたのか。
異色のベストセラー『つけびの村』著者は、彼らの手記や現場取材をもとに、意外な事実に辿り着く。たとえば、松山刑務所からの逃走犯について、地域の人たちは今でもこう話すのだ。
〈不思議なことに、話を聞かせてもらった住民は皆、野宮信一(仮名)のことを「野宮くん」「信一くん」と呼び、親しみを隠さないのである。
「野宮くんのこと聞きに来たの? 野宮くん、って島の人は皆こう言うね。あの人は悪い人じゃないよ。元気にしとるんかしら」
「信一くん、そんなん隠れとってもしゃあないから、出てきたらご飯でも食べさせてあげるのに、って皆で話してました。もう実は誰か、おばあちゃんとかがご飯食べさせてるんじゃないん、って」〉(本文より)
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