覆された「少し飲んだほうが長生き」説

それでは、1日平均20g程度という適量は、どのように決まったのだろうか。

「日本人男性を7年間追跡した国内でのコホート研究の結果や、欧米人を対象とした海外の研究の結果などを基に、なるべく病気のリスクが上がらない飲酒量ということで決められました。逆に、どれだけ多く飲むと体に悪いのかについては、毎日60g以上飲むとがんをはじめとするさまざまな病気のリスクが上がることが以前から知られていました」(吉本さん)

なるほど、1日で60g以上はキケン、せめて20gに抑えよう、ということか。

なお、医学の世界では、病気のリスクがどれくらいあるかを調べるために、大規模な疫学調査を行う。先ほど紹介した日本人男性を7年間追跡した調査では、40~59歳の1万9231人を対象にしていた。また、海外の研究の結果といっていたものは、16の疫学研究をメタ分析したものだ。

さて、その海外の研究結果の中に、興味深いグラフがある。横軸を1日平均アルコール消費量、縦軸を死亡リスク(酒を飲まない人を1とした相対リスク)にすると、男性については 日当たりのアルコール量が10~19gで、女性では1日9gまでが最も死亡リスクが低く、それ以降はアルコール量が増加するに従って死亡率が上昇することが示されている。

これがいわゆる「J カーブ」のグラフだ。アルファベットの「 J 」を斜めに倒したように見えることからそう呼ばれている。そして、これを根拠に「まったく 飲まない人よりもほどほどに飲んだほうが長生き」という説を信じている酒好きもいる。

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なぜこのような形のグラフになるのかというと、心疾患や脳梗塞などの血管に関連した病気については、少し酒を飲んだほうが良い影響があるためだ。心疾患や脳梗塞は、死につながる可能性の大きな病気であるため、結果として死亡リスクをこのグラフのように押し下げる効果があるというわけだ。