イエスが仏陀の教えを知った可能性

本村 さらに、「いかなる生き物にも害を加えない」として、宮廷では肉食をほとんど排除し、ある種の動物を殺したり去勢したりすることを禁じたりもしています。

そうやって仏陀の教えを国内に周知するだけではなく、アショーカ王はダルマを世界に普及させる使節を西方や南方に送りました。それも10人や20人ではありません。何百人もの使節を派遣したんですね。

その使節たちが、エジプトのアレクサンドリアまで行っていることはわかっています。ですから、イエスが仏陀の教えを知った可能性は十分にあるんです。

佐藤 私から見ると、『イエスは仏教徒だった?』という本の考え方は、1960年代の終わりから1970年代にかけて全共闘運動にも影響を与えた荒井献さんや田川建三さん、滝沢克己さんといった神学者たちの考え方と非常に近いんです。

とくに滝沢克己さんは、不可分・不可同・不可逆の原点論という形で、「原イエス」と親鸞などの仏教思想を結びつけようとしました。だから滝沢克己さんの本は、キリスト教系の出版社からはほとんど出ていません。主に法蔵館から出ていましたね。

イエスが仏教徒だった説を検証…全共闘にまで影響を与えた大論争「なぜその言説は仏陀の教えとされるものにこんなに近いのだろう」_2

本村 そうでしたね。僕が大学生か大学院生ぐらいの時代です。

佐藤 いまはほとんど忘れ去られていますが、滝沢克己さんや田川建三さんはその時期にキリスト教界隈ではすごい影響を持っていたんですよ。

本村 どうして全共闘に影響を与えたんでしょう。

佐藤 当時はキリスト教がリベラルな宗教というイメージを持たれていたので、キリスト教の言葉を使いながら権力性を批判していたんでしょうね。新左翼が日本共産党を批判したのと類似的な構造かもしれません。あの時代は、東大の西洋古典学専修課程がすごく元気でしたよね。

本村 日本社会の封建性を払拭して近代化するために、民主主義を定着させなければいけないという大きな流れがありました。その中にキリスト教を位置づけようということで、優秀な学生たちが西洋古典学専修課程に行ったのかもしれませんね。