「ナメられやがって この握り金玉が」

2月下旬、Xで「握り金玉(ぎんたま)」という言葉が大きくバズった。発端は、とあるXユーザーが〈まだまだ知らない言葉ってたくさんあるんだな〉とつぶやきながら、辞書の写真を投稿したことがきっかけのひとつだ。

「握り金玉」とは、『Weblio国語辞典』によると、〈少しの金も持っていないこと〉〈何もしていないでいる状態〉という意味。手持無沙汰で睾丸でも握っているほか仕方がないところ…が語源とされている。

いったい、なぜこの言葉がここまでバズったのか。単純な“ワードの強さ”ということはもちろんだが、大人気漫画『ろくでなしBLUES』の印象的なシーンで使用されていたことも、大きな理由だ。

『ろくでなしBLUES』のコミックス3巻(文庫版2巻)に当該シーンがある。

主人公・前田太尊が、畑中なつみが万引きしているのを目撃。それを注意しようとなつみに声をかけたところ、なつみの仲間である角海老高校の不良らとケンカになり、前田は彼らを軽く一蹴。

この不良たちが、角海老高校の頭である平仲光二に報告すると、平仲は不甲斐ない彼らに制裁を加えて、「ナメられやがって この握り金玉が」と吐き捨てる…といったシーンだ。

『ろくでなしBLUES』 ©森田まさのり/集英社
『ろくでなしBLUES』 ©森田まさのり/集英社
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そのためSNSでは、『ろくでなしBLUES』ファンたちから〈握り金玉ってろくでなしBLUESでしか聞いた事なかったけど辞書にも載ってるような言葉だったんか〉〈語彙力ある不良素敵だわ〉〈禁止ワードじゃないんだねw〉〈これスッキリした人はかなりいるはずw〉といった声があがっている。この投稿によって、長年の謎だった事柄が1つ解決したようだ。

「週刊少年ジャンプ」で『ろくでなしBLUES』の連載が始まったのは1988年。この頃は、わからない言葉があっても手軽にネットで調べられる時代では当然ない。

辞書で調べることはもちろん可能だが、真面目に「握り金玉ってどういう意味だろう?」とわざわざ辞書を取り出して引くのもなかなか手間のかかる行為だ。

作者の森田まさのり先生は当時どんな意図でこの言葉を使ったのだろうか。森田先生を直撃した。

「握り金玉については、当時、友だちに教えてもらったと記憶してます。ただ本来の意味からすると少し間違ったニュアンスで捉えていて、情けない奴的な意味あいで使いました。作品のセリフを読んでもらうと、微妙に本来の意味とはズレてることがわかると思います」

確かに作中では、太尊にあっけなくやられた不良たちの不甲斐なさを、平仲がとがめるという意図で“握り金玉”が用いられているので、本来の“暇を持て余す”的な意味とは少し違うようだ。

だが、微妙に意味はズレているが、平仲が頑張って難しい言葉を使おうとしていると考えると、なんだか高校生らしい微笑ましいシーンにも見えてくる。