あだち充の野球マンガ屈指ともいえる奇跡の一戦!!
①明青学園 VS 須見工(『タッチ』小学館)
東東京代表を決める一戦。甲子園未経験の明青学園をエース・上杉達也が引っ張る。永遠のヒロイン・浅倉南の「甲子園につれてって」という希望を実現できるかどうかのまさに大一番。
対する須見工を牽引するのは、天才打者として全国にその名を轟かせる新田明男。2人の対決が試合の主軸になるのは確かなのだが、事故死した弟・和也の思いを背負おうとする達也、明青学園に復讐するはずが本来の野球人へと戻っていく柏葉英二郎監督、さらには意外なプレーで試合を動かす須見工の2年生・大熊など、複雑に絡み合った思いが名勝負を編み上げていく。
連載当時、「何だよ、あだち充! 野球の勝負シーンもちゃんと描けるんじゃないか!」と多くの読者を驚かせた試合であり、野球マンガの大家となった今でもベストワンに挙げられることの多い一戦である。
試合のラスト、勝負が決するのと同時に、亡き和也もひとつの奇跡を残す。柏葉英二郎監督との後日談も、あだち充らしい言葉のやり取りを使ったエピソードで胸にグッと来る。
ベンチの駆け引きの面白さは他の追随を許さない
②彩珠学院 VS 聖母学苑(『ラストイニング』小学館)
埼玉県の地区予選決勝。古豪・彩珠学院と、新興勢力・聖母学苑による一戦。見どころは何といっても、両監督の采配。彩珠学院は、インチキセールスマンから転身を果たしたペテン師?・鳩ヶ谷圭輔。試合の流れと弱点を見抜くことにかけては超一流だ。
一方の聖母学苑の監督は、3度の甲子園出場経験を持つ智将・桐生義正。冷静沈着な分析力と、実績に裏打ちされた選手掌握術に長けている。
ベンチの駆け引きによる知的野球の面白さにかけては、最高峰に位置する一戦。野球好きなら間違いなく引き込まれる。また試合後半、全国から集められたエリート集団(いわゆる“外人部隊”)である聖母学苑の選手たちが一体となっていく展開は、単なる勧善懲悪に終わらない深みを作品にもたらしている。
思い入れ深い3年生たちが、手を伸ばした夢舞台
③青道 VS 稲城実業(『ダイヤのA』講談社)
主人公・沢村が1年生の夏に迎えた西東京大会決勝。相手は夏の連覇を狙う稲城実業。2年生エースの成宮鳴は、今大会失点ゼロでここまで勝ち上がってきている。しかし青道は、あえて小細工をせず、お得意の攻撃野球を展開。自分たちの野球を貫く。
なぜ、この試合が熱いのかといえば、まずは1年生の沢村栄純や降谷暁たちが初めて夏の大一番に直面したこと。さらに青道の2年生の捕手・御幸一也が稲城実業の中心メンバーたちと中学時代からの因縁があること。加えて3年生たちが甲子園か、引退かの瀬戸際に立たされたこと。3つの学年それぞれの熱い思いが交錯するのだ。
特に、連載が始まったときの3年生というのは、読者のほうも思い入れが強くなるもの。彼らが、野球人生をかけた勝負に挑むということで、物語は終盤、大盛り上がりを見せる。静かに、燃えたぎっていく3年生たちの思い。激しく、力強さを増していく下級生たちのプレー。最後のイニング、最後の瞬間まで目が離せない究極の一戦だ。