「黒歴史」の初出は『∀ガンダム』!?
「大正時代に漫画が人々の娯楽として浸透したころから、漫画に出てきた言葉が一般化する例はありました。今、当たり前のように日常生活で使っている言葉も、実はマンガやアニメが発祥だったりします」
飯間浩明さんは手元のパソコンのデータベースを見ながらそう語る。2022年1月に改訂された『三省堂国語辞典』第8版には、さまざまなマンガ発の言葉が掲載されているが、古い言葉だとおよそ100年も昔に遡るという。
「最も古い例で言うと、朝日新聞やアサヒグラフで連載されていた『正チャンの冒険』(1923年~)で主人公の正ちゃんが被っていた帽子が「正ちゃん帽」と呼ばれ、一般的な名称として浸透していったんです。今のビーニーというニット帽に近くて、そのてっぺんにポンポンがついたものですね」
最近の例だと『鬼滅の刃』から生まれた「全集中」や「よもやよもや」といったフレーズが有名だが……。実はまだ『三省堂国語辞典』には載っていない。
「2020年、菅義偉総理大臣が『全集中の呼吸で答弁させていただく』と国会で話して叩かれていましたよね。鬼滅の刃の言葉もすごい勢いで広まりましたが、『わざと使っている』と思われるようだとまだ定着したとは言えません。たとえば先生や親が『全集中で頑張りなさい』と言っても違和感がないくらい、普通の文脈で使われるようになってはじめて国語辞典に載せられるんです」
そんな厳しい審査をくぐり抜けた漫画のフレーズの中でも、最も有名なのは「黒歴史」だろう。あまりにも違和感なく使われているため、出典元のアニメ作品を観たことがない人も多いかもしれない。
「『黒歴史』の初出は『∀ガンダム』(1999年)。闇に封印されてきた数々の宇宙戦争の歴史を、作中で『黒歴史』と呼ぶんです。当初はガンダムファンの間だけで使われていたのですが、だんだん一般の層にまで広がってきて、2010年代に入ってからはみんなが使うようになりました」
飯間さんももちろん『∀ガンダム』を視聴して、『黒歴史』という言葉が出てくるシーンを確認。「ネットの情報だけでは不確実なので、自分の目で出典元を確認してから辞典に載せていますよ」と飯間さんは語る。