まだ余力がある筋肉に脳がストップをかける
脳が「あえて」疲労を生じさせるもう1つの例が、スポーツに関連してよく話題になる「中枢神経系疲労(中枢疲労)」だ。
中枢疲労とは、神経伝達物質の信号が改変された状態だ。とくにノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンといった神経伝達物質が、筋肉そのものの状態とはかかわりなく、筋肉の機能を鈍らせてしまうことをいう。
この状態に陥ると、筋肉にはまだ余力があるのに、神経伝達物質の信号がオフになっているため、脳は筋肉の働きにストップをかけてしまう。
いわば、体は車で、脳は運転手のようなものだ。もし車にオイル切れやガス欠などの不具合が起きていたら、運転手がどんなにアクセルを踏みこんだところで、正常な運転はできない。同じように、もし筋肉がエネルギー切れを起こしたり、傷ついたりしたら、脳がどんな指示を出そうと、身体機能は正常に働かない。
また、その逆のケースもありうる。車(筋肉)が完璧に整備されていても、運転手(脳)がブレーキを踏んでいれば、どこにも行けないのだ。
疾病行動と同じく、これは私たちを守るために進化が生み出したメカニズムだ。脳と体はつねに連絡を取り合っているため、身体活動を続けることで生命が脅かされるという判断が下ると、脳はそれを防ごうとする。
結果的に、脳は脱水や発熱、栄養不足といった脅威に対して強い警戒を示し、活動指令を減らして、体を疲れさせ動きを止めるよう指令を増やす。
慢性的な中枢疲労は、脳が体からの信号を読み間違え、エネルギー産生に誤って急ブレーキをかけるために起こる。
慢性疲労を抱える人は、筋肉の機能にはなんの異常も見られないのに、筋肉を完全に動かす(収縮させる)ことができなくなる。ただし、筋肉を直接刺激すれば正常に収縮させられる。これは、問題が筋肉ではなく、脳の信号にあることを示している。
体力を使った際に筋肉に伝えられる脳の信号の強さを電極を使って計測すると、慢性疲労を抱える女性であっても、電気で局所的に刺激を与えれば、筋肉は健康的な(疲労を感じていない)人と同じくらい収縮することがわかった。だがこの収縮力は、筋肉への刺激が自発的に(脳によって)与えられたときの40%にとどまった。
この結果は、中枢疲労が体にどんな影響をもたらすかを示している。筋肉組織に届く信号は、慢性疲労によって大幅に減少するのだ。
文/アリ・ウィッテン アレックス・リーフ
写真/shutterstock
私たちの体が「疲れを感じる」理由を知っていますか
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