どの抵抗運動にも複雑なレイヤーがある

「暴力はいけません」と決めつけることに潜む“暴力性”を考える。「人口の3.5%が非暴力的な運動で立ち上がれば世の中は変わる」の欺瞞_3
ブレイディみかこさんは英国からオンラインでの参加となった。お二人の対談は数年ぶりだという
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 これを“非武装だけの運動”として評価するのは無理があります。そもそもマンデラの非武装抵抗も決してゆるふわなデモではなく、警察に殴られたり蹴られたりしながらバリケードに突っ込んでいくような過激なものでした。

そうやって世界中の抵抗運動を見ていくと、「非暴力かどうか」だけでは評価できないことがわかります。武装した暴力的運動があれば、武装したけど非暴力だった運動もある。非武装の暴力運動があれば、非武装で非暴力だった運動もある。すべての抵抗運動に「暴力」をめぐる複雑なレイヤーがあるのに、「3.5%ルール」はそこを無視してます。

ちなみに、非暴力抵抗を理論化したジーン・シャープは、近年の研究でCIAや国防総省と深い関係にあったことがわかっています。「3.5%ルール」の研究者にも、NATOや国務省に勤めていた人がいる。陰謀論っぽいけど、事実だから仕方ない。

すごい欺瞞ですよね。もし僕が、「非暴力でいこうぜ!」と言いながら官房機密費もらっていたら、「おかしいだろ!」ってなるじゃないですか。この本はそういう違和感が積み重なってできあがっています(笑)。

ブレイディ 「3.5%ルール」も「暴力はいけません」と同じで、結局は統治者の視点なんですよね。「戦え」という言葉がイヤがられる空気とつながっています。

 どんどん支配する側にとって都合のいい思想が広がっているわけですよ。

ブレイディ ……という感じで大学でも教えてらっしゃるんだなとわかって、すごく感慨深い本でした(笑)。

構成/小山田裕哉

死なないための暴力論
森 元斎
「暴力はいけません」と決めつけることに潜む“暴力性”を考える。「人口の3.5%が非暴力的な運動で立ち上がれば世の中は変わる」の欺瞞_4
2024年2月7日発売
1,012円(税込)
新書判/256ページ
ISBN:978-4-7976-8136-9
ブレイディみかこさん、推薦!!
「『暴力はいけません』と決めつけることの暴力性に、私たちは気づいているだろうか」

「暴力反対」とはよく聞くけれど、じつは世の中は暴力にあふれている。
国は警察という暴力装置を持っており、問答無用で私たちから徴税する(そして増税する)。資本主義は、私たちを搾取し、格差を生み出す。家父長制は男性優位・女性劣位のシステムをつくりあげる。一方で、こうした暴力に対抗して、民主化や差別の撤廃などを成し遂げてきたのも、また暴力である。世の中にあふれる暴力には、否定すべきものと、肯定せざるをえないものがあるのだ。
思考停止の「暴力反対」から抜け出し、世界の思想・運動から倫理的な力のあり方を学ぶ。

【内容の一部抜粋】
・人間は、そもそも暴力的な存在である
・暴力は、ヒエラルキー(階級)の上位がふるうものと、下位がふるうものに大別される
・新自由主義経済がチリの軍事クーデターの要因となった
・刑務所では、受刑者は搾取され、受刑者自身が対象となるビジネスを生み出す(産獄複合体)
・インド独立も、アパルトヘイトの撤廃も、公民権運動も、女性参政権獲得も、「暴力と非暴力のセット」によって達成された
・メキシコには権力を求めない「サパティスタ民族解放軍」という反政府武装組織がある
・クルド人たちは、国家樹立を目指さない男女平等の運動「ロジャヴァ革命」を起こした
・抵抗運動の多くは、中長期的に見れば成功している
・相互扶助もまた、(暴)力のひとつの表れである

【目次】
・第一章 世界は暴力にあふれている
・第二章 支配・搾取する、上からの暴力
・第三章 自律・抵抗する、下からの反暴力
・第四章 暴力の手前にあるもの
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