どの抵抗運動にも複雑なレイヤーがある
森 これを“非武装だけの運動”として評価するのは無理があります。そもそもマンデラの非武装抵抗も決してゆるふわなデモではなく、警察に殴られたり蹴られたりしながらバリケードに突っ込んでいくような過激なものでした。
そうやって世界中の抵抗運動を見ていくと、「非暴力かどうか」だけでは評価できないことがわかります。武装した暴力的運動があれば、武装したけど非暴力だった運動もある。非武装の暴力運動があれば、非武装で非暴力だった運動もある。すべての抵抗運動に「暴力」をめぐる複雑なレイヤーがあるのに、「3.5%ルール」はそこを無視してます。
ちなみに、非暴力抵抗を理論化したジーン・シャープは、近年の研究でCIAや国防総省と深い関係にあったことがわかっています。「3.5%ルール」の研究者にも、NATOや国務省に勤めていた人がいる。陰謀論っぽいけど、事実だから仕方ない。
すごい欺瞞ですよね。もし僕が、「非暴力でいこうぜ!」と言いながら官房機密費もらっていたら、「おかしいだろ!」ってなるじゃないですか。この本はそういう違和感が積み重なってできあがっています(笑)。
ブレイディ 「3.5%ルール」も「暴力はいけません」と同じで、結局は統治者の視点なんですよね。「戦え」という言葉がイヤがられる空気とつながっています。
森 どんどん支配する側にとって都合のいい思想が広がっているわけですよ。
ブレイディ ……という感じで大学でも教えてらっしゃるんだなとわかって、すごく感慨深い本でした(笑)。
構成/小山田裕哉