さまざまな“差”を抱えた二人だけど…
――漫画『軍人婿さんと大根嫁さん』はSNSで人気に火がついた作品ですが、書籍化に至るまでの経緯について教えてください。
コマkoma(以下同) 私は長蔵ヒロコさんの『煙と蜜』という漫画がすごく好きなのですが、それも本作と同様、大正時代の軍人さんが出てくるお話なんですね。その物語をきっかけに「私だったらこんなふうにしたいな」とか「軍人さんと田舎の娘さんが出てくる話っておもしろそう」とか、以前から仲よくさせていただいている作家さんたちとX上で盛り上がりまして。
それをイラストや漫画にしたらどんどん作品数が増えていったので、一冊の同人誌を発行してみたんです。そうしたら意外とたくさんの方に買っていただけて、その後、出版社の方からお話をもらって……という流れです。
――「軍人さんと田舎の娘さんが出てくる話」というイメージから、どのように物語をふくらませていったのでしょうか?
あの時代は、同じ国に暮らす人たちでも都会と田舎では生活スタイルが全然違いますよね。私は以前から、崇高で近寄りがたい人が突然田舎町にやってきて、戸惑いながらもその土地の生活に馴染んでいくようなシチュエーションが好きで。
本作の誉さんと花ちゃんは、身分だけではなく、年齢差、体格差、貧富の差、文化の差など、とにかくたくさんの“差”を抱えています。「そんな二人を急に結婚させたらどうなるのかな?」と思い、想像がふくらんでいきました。
でも、その差によって何か障壁を生みたいわけではなく、二人をどこまでもほのぼのさせたいという気持ちもありまして。決して一目惚れではないけれど、何かしらの縁を感じたからおたがいに結婚は受け入れるし、村での暮らしは本当に穏やかで、誉さんが都会で抱えてきたストレスがどんどん取れていく。そんなお話を描きたいと思い、本作ができ上がりました。
――本作は時代ものですが、読者には若い方も多いと思います。幅広い層に受け入れられやすいように工夫した点などはありましたか?
この物語は基本、ラブコメという形で描いています。誉さんは軍人なので、どうしても背後に戦争が見え隠れしてしまいますが、あまり悲しすぎる話にはしたくなくて。どこかに必ず、ちょっと笑える要素を入れ込むようにしています。
あとは誉さんのカッコよさよりも、花ちゃんが可愛く見えるように意識して描いていますね。“男前の軍人さんが出てくる漫画”というのではなく、あくまでも主人公は花ちゃんなので。
また、花ちゃんがサトイモを煮てほっこり……みたいなシーンが意外と若い人から好評だったみたいで、それからは、若い人向けてということを特段意識せずに自分の好きなものを描いていけばいいのかなと思うようにもなりました。
――ほかにも、本作でこだわりを持って描いている部分がありましたら教えてください。
花ちゃんの村に住む人たちはみんな、丸い顔と点の目で描いています。人間というよりも、どちらかといえば妖精に近いようなイメージ(笑)。一方、誉さんサイドのお話に出てくる人々は、極力リアルに描くようにしています。人物はゴツゴツしていて、背景にも古写真やSLの3Dを使ったり。こうして描き方に変化をつけることで、天国のように穏やかな花ちゃんの村と、忙しない都会を対比させるようにしています。