考えごとはしない、感性もない、ChatGPT人間

──まだ番組名に“事典”があった頃に名付けたもので、印象的なものはありますか?

玉置 街の中を漂っているビニール袋に「街クラゲ」っていう名前を付けたことくらいしか覚えてないです。

水野 いい比喩ですね。僕は『歳時記』という、季語が載っている事典を頭から最後まで読んだことがあるんですけど、ぎりぎり「街クラゲ」は載ってそうな気がします。例えば、川の一面に桜の花びらが落ちまくって船みたいになっている状態を形容した「花いかだ」という言葉がありますよ。

玉置 すごいな。例が出るスピードが早すぎます。

水野 相方に鍛えられました。

「文学を読んで内容は理解できたとして、感性に響いたりはほとんどしない」それでも“言語学”をテーマにしたPodcastを大成功させた理由【『奇奇怪怪』×『ゆる言語学ラジオ』】_3
番組の書籍版第2弾となる『奇奇怪怪』が2023年に刊行された

玉置 『ゆる言語学ラジオ』を聴いていると、Wikipediaのリンクをずっと踏み続けているみたいな快楽があるんですよね。それを今、体感しました。

水野 僕自身いつもWikipediaのリンク踏み続けている人間なので、それがしゃべりでも出ているのかもしれません。でも、言語化ということで言えば、僕ではなく相方の堀元さんの領分です。『奇奇怪怪』だと……

玉置 言語化担当はTaiTanですね。

水野 ですよね。堀元さんは、そしてきっとTaiTanさんも、ずっと考えごとをしているタイプだと思うんです。何かに対して疑問や不満を持ったり、怒ったり、もちろん感動したりとか。

玉置 それって普通のことだと思うんですけど、水野さんは考えごとしないんですか?

水野 しないです。不満とか怒りとか、生活していて気になることとか、ほとんどない。

玉置 そんな人いるんですか……。

「文学を読んで内容は理解できたとして、感性に響いたりはほとんどしない」それでも“言語学”をテーマにしたPodcastを大成功させた理由【『奇奇怪怪』×『ゆる言語学ラジオ』】_4

水野 ただ、インプットだけは膨大にしているので、何か話題を振られた時には、瞬時に返すことはできるんです。

玉置 それはそれですごいですね。

水野 考えごとをしないので、音楽や絵も鑑賞できないんですよ。

玉置 え? どういうことですか?

水野 何かを観たり聴いたりしても、自分の体験とつながっている、っていう感覚がないんです。なんというか、審美眼が備わっていない。

玉置 えー。そんなことってありますかね。

水野 なので、僕と話している時は、ChatGPTが相手だと思っていただければ。

玉置 感情ゼロの。

水野 ミュージシャンの方にこんなこと言うのは失礼であると承知の上で、僕には感性とか感受性というものがほとんどないんですよ。

玉置 何かを見て「いいな」とかも思わないんですか?

水野 例えば、赤い花を見て「赤い色をしているな」というのは色覚として感じることはできますけど、そこから「赤くて素敵だな」とか、良い悪いの感想を持つことはないですね。

玉置 マジですか。でも普段、編集者としてお仕事をしている中で、表紙のディレクションをしたりしますよね?

水野 担当した書籍のデザインは、基本的にデザイナーさんにお任せしています。プロに託したほうが絶対いいものができますから。

玉置 それはそうですけど……。

水野 あ、でも、クリエイティブな方向ではなく、マーケティングの方向で考えることはできるので、「目につきやすいからイラストを入れましょう」とかは言えますよ。クリエイティビティを発揮するものづくりはできないけど、再現性のあること、サイエンスならできる、という感じですね。

「文学を読んで内容は理解できたとして、感性に響いたりはほとんどしない」それでも“言語学”をテーマにしたPodcastを大成功させた理由【『奇奇怪怪』×『ゆる言語学ラジオ』】_5

玉置 へぇ。小説とかも読まないんですか?

水野 文芸とか純文学は、書かれている内容は理解できたとして、感性に響いたりはほとんどしないですね。こんなことを玉置さんの前で言うのは本当に申し訳ないのですが、音楽を聴いても、明るい曲調だから明るいことを歌っているんだろうなって思うくらいで、実際の歌詞は聴いてないんです。というか、情景が浮かんでこない。

玉置 言葉には興味あるのに。おもしろいですね。

水野 認知機能には興味あるんですよ。「人間とは何か」ということも知りたい。でもそれは、感性ではなく、メカニズムのほうなんでしょうね。構造を解き明かすことはできるので、本でいうとミステリーは読めるんです。トリックは楽しめる。ただ、主人公の名前とかキャラクターはまったく覚えられません。

玉置 本の感想を求められたりしたら、どうするんですか?

水野 「おもしろかったです」と……気の利いたことは何も言えないですね。

玉置 僕なんかは学生時代、自分の言いたいことを言うためだけに課題図書を読んでいるタイプでした。読書感想文なのに、本の感想は全然書かないで。

水野 本を読んで言いたいことがあるだなんて、素晴らしいじゃないですか。

玉置 水野さんは読書感想文、どう書いてました?

水野 書くほどの感想はないので、ひたすら要約を書いて提出ですね。的確に要約することは得意なので。一応最後に「おもしろかったです」とか、一言くらいテンプレの感想を添えて。

玉置 的確な要約ができるのも立派な才能ですよ。

水野 本の構成や構造を読み解くことはできるので、そこをほめることはできるんです。ただ、今この21世紀を生きる人材に最も必要な「自分で問いを見つける」という能力が完全に欠如しているんですよね。受験勉強エリートとして、与えられた問題集を解くことだけで生きてきてしまった弊害かもしれません。そういう意味でも、玉置さんの、感想は書かずに、自分の言いたいことを言うために本を読むっていうのは、さらに時代の先を行っていると思いますよ。

玉置 どうですかね。自分がミュージシャンであるとかは置いておいて、水野さんが生きていて幸福なら、それで全然いいと思います。別に芸術で感動できることだけが幸福だとは思わないし。『ゆる言語学ラジオ』を聴いていて、自分で調べてきたことをしゃべっている水野さんはすごく幸福そうに見えます。その幸福は、種類とかベクトルが違うだけで、僕がライブで歌ったり叫んだりしている幸福と同じですよ。