肌に合わない言葉、というのはあるのか?

玉置 普段の会話とは別で、ライブで歌う時に、自分の中で血肉になっていない言葉って出てこないんですよね。あんまり使わない言葉だけど、こっちのほうがかっこいいな、とか思って書いた歌詞ほどライブで飛ばしやすい。

水野 それはおもしろい報告ですね。身体化された語彙じゃないと、いざという時に出てこない。

玉置 めっちゃトレーニングとか経験を積めば出てくるようになるとは思うんですけど、明らかに普段の語彙で書いた歌詞との違いはあります。

水野 その話は言葉と身体に関わるテーマなので、最近ホットなジャンルですよ。

──『ゆる言語学ラジオ』の中でも話題になっていましたが、水野さんは普段の会話でも学術用語を普通に使ってるって

水野 よく指摘されますね。「その言葉、人文書では見るけど、しゃべってる人は初めて見た」とかって言われがちです。

玉置 めっちゃおもしろい。

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番組の書籍版となる『言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼』が2023年に刊行された

水野 僕は辞書が大好きで、文語と口語という区別が存在することを知らない小学生時代から辞書を読んでいたせいで、どの言葉も口語で使っていいと思っていたんですよ。だから小学校の作文でも、友だちと話している時でも、普通にことわざとか入れちゃう。知をひけらかしたいとかでは全然なく、ごく自然に、覚えた言葉を使っちゃう感覚で。

玉置 それすごくわかります。水野さんほどではないですけど、僕も飲み屋で「お前に言っても釈迦に説法だと思うけど」って言ったら、一緒にいた友人たちに感心されました。「このタイミングでよくその言葉出たな、感動したよ」って。

水野 感動したっていうのがいいですね。僕も人の語彙に感動すること、ありますよ。それでいつか自分も使ってやろうって。

玉置 でもさっきの血肉になってない話と同じで、いいなと思ってしばらく使ってみたけど、どうしても肌に合わない言葉ってありません?

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水野 え、言葉に対して、肌に合うとか合わないって、あるんですか?

玉置 水野さんはないですか?

水野 僕はないですね。肌に合わないというのは、キザだからとか、格式高く思われたくないとか、そういう感覚ですか?

玉置 というより、やっぱり自分の生活圏にはない言葉というか。無理して経済用語を使っても、結局使いこなせない、みたいな。

水野 ボックス相場とか、ネットワーク外部性とか、そういうやつですか?

玉置 そんなんじゃないです!

水野 限界効用逓減の法則とか?

玉置 違います! すみません、じゃあ経済用語じゃないです! なんとなくカタカナのビジネス用語くらいの意味です。

水野 まぁでも、言いたいことはわかりました。ただ、それもやっぱり玉置さんの美学ですよね。自分はこういう言葉は使いたくない、っていう。

玉置 水野さんにはそういう感覚ないんですか?

水野 僕には美学が乏しいので、その感覚もありません。すべて取り入れたい。自分が辞書になったら最強だと思っているので。

玉置 すごすぎる。

水野 もし玉置さんが、目新しい言葉をあまり取り入れないとしたら、『岩波国語辞典』タイプですね。僕は新語も網羅したいので『現代例解国語辞典』タイプです。