がんの罹患率は上昇傾向にある
がんにかかっている人の数(罹患数)の統計をとることは、死亡数の統計をとるよりもずっと大変です。全国の病院でがんと診断された患者さんの情報を集めなければならないからです。
以前は、病院ごとや都道府県ごとのデータを集めてましたが、すべての病院が参加していたわけではなく、また、患者さんの都道府県間の移動によるデータの重複などもありました。これでは、都道府県別の罹患状況を正確に把握できません。また、全国の罹患数を正確に把握することも困難なため、長期間にわたって比較的登録精度のよい山形・福井・長崎の3県のデータから推計していました。
その推計値では、全国の罹患数は1985年以降増加し続けています。ただし、がんは高齢になるほど罹患率が高くなるので、人口構成の変化が影響している可能性もあります。このため、年次推移を見るには、年齢調整死亡率と同様に、モデル人口を使って年齢調整罹患率を求める必要があります。
比較的登録精度の高い山形・福井・長崎の3県のデータを用いた、年齢調整がん罹患率の推移(図1-8)を見ると、年齢の影響を差し引いてもがんの罹患率は上昇していることがわかります。
2013年に「がん登録等の推進に関する法律(がん登録推進法)」が成立し、全国の罹患数や罹患率を正確に把握するため、2016年1月から「全国がん登録」制度がスタートしました。2016年1月以降に新たに診断されたがんの情報は、病院から都道府県に届け出があると、都道府県が国のデータベースにオンライン登録し、国立がん研究センターが全国のデータを整理・集約して一元的に管理することになったのです。
全国がん登録制度が始まってからの年数が浅いため、データはまだ完全なものにはなっていませんが、2019年の全国の年齢調整がん罹患率は387.4でした。罹患率は、人口10万人のうち何例罹患したかを示します。
罹患率が上昇している理由として、高齢化、感染症など他疾患での死亡の減少、生活習慣や食生活の変化などがあると考えられていますが、はっきりとはわかっていません。全国がん登録制度では、がんの発見経緯やステージなどの情報も集められているので、今後、罹患率が上昇している理由もわかってくるものと思われます。