「出張朝市」を準備中
道下さんの学生時代からの後輩である竹原多鶴(56)さんも、朝市で輪島塗の店を10年近く営んでいた。
「道下さんがきっかけで期間限定のお店で働き始めて、気がつけば自分でお店を持ってました。コロナ前は観光客も多いし、顔見知りの人とはしゃべってばかり。本当に賑やかで楽しかったからまだ現実に頭がついていかないの。『これから初売りがんばらなきゃねー』と思ってたのに、もう全部ないんだもんね」
今回の地震によって二次避難で遠方の親戚宅に身を寄せたり、廃業を選ぶ朝市の組合員は少なくない。しかし、朝市の灯は完全に消えたわけではない。
朝市の一部の商店主が輪島市朝市組合や県漁協組合、金石町商店街振興組合などから協力を得るかたちで金沢市金石港の漁協などの施設を借り、ゴールデンウィークでの朝市の開催を目指している。1月24日にはこの第1回相談会が行われ、各組合から21人が出席。前出の道下さんも参加した。
「朝市組合としてではなく、仲のいい10人ほどの組合員メンバーで『出張朝市』に向けて動いています。とにかく輪島朝市をもう一度復活させたいんです」
「のと×能登」を営んでいた橋本さんも、「出張朝市」への思いを時折、涙ぐみながらこう語る。
「金石港は、朝市通りの近くの輪島港に雰囲気が似ていますし、いろんな方たちの協力を得て一歩ずつ前に進んでいます。朝市のメンバーは『このまま終わるわけにはいかない』という思いを持っていますし、これからまわりの組合員の方たちにも『もう一度やりませんか?』と声をかけていくつもりです。
それぞれ事情があって参加してくれる組合員の方は多くないかもしれませんが、いつかここに観光客が戻ってきたときのために、みんなの居場所を残しておきたい。私たちは1000年以上続くこの朝市を次世代に残す使命があると思うんです」
地震によって“形”は失ってしまったとしても、復活させたいと思い行動する人がいるかぎり、復興の灯は消えない。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
撮影/Soichiro Koriyama
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