漁師から遊覧船の船長へ転身
初めての漁師としての仕事は、当然ながら楽ではなかった。水を吸った漁具は重く、ハードな肉体労働が続いたが、大好きな海のことを学べる毎日は新鮮で楽しかった。
3年ほど漁師として働く中で、海や釣りと同様、人と話すことが好きな寺谷さんは周りから「遊覧船の船長やったらどう?」と勧められる。
自分の船で海に出て、お客さんを案内して楽しませる遊覧船の船長。船があれば釣りにも行ける。
「これは自分にとって天職なんじゃないか?」
そう考えた寺谷さん、2022年に約1000万円の船をローンで買い、漁師から遊覧船「リイネ(Re:INE)」の船長へ転身した。
日本海側に位置する伊根町の冬は雪が降る厳しい寒さのため、遊覧船の稼働時期は3月の春休みから、11月の末まで。夏の7~9月が繁忙期だ。
朝8時から夕方5時まで、1回25分程で伊根湾を周遊し、大人1名の料金は1000円。稼働できない季節があっても年収は、サラリーマン時代の1.5倍になった。
現在、伊根湾の遊覧船は全部で5艘だが、今年もっと増える予定だそうだ。当然、競争があるため「その回毎のお客さんに合った楽しませ方、接し方」をどう工夫するか、日々奮闘している。
「遊覧船に乗るときって、楽しみ方が人それぞれ違うんですね。静かに集中して写真を撮りたい人もいれば、伊根についての案内、話を聞きたい人もいる。その時に乗ってくれたお客さんがどういうニーズなのかを素早く感じ取り、満足度の高い遊覧、時間を提供できるよう、毎回頑張ります。
船長の仕事はトークショーみたいなものでもあるので、人とコミュニケーションするのが好きな僕にはやりがいがありますね」(寺谷さん・以下同)