見えてきた有効な打ち手

若手育成成功を実感している管理職の全体像を整理したうえで、具体的な打ち手についてその有効性を検証する。

まず、「配属ガチャ」「異動ガチャ」という言葉もあり、若手のキャリアに対して大きな影響を与える〝異動〞前後のコミュニケーションについて整理する。

転職経験のある管理職のほうが若手育成に自信あり?…「部下ガチャ」「配属ガチャ」「異動ガチャ」で失敗しないために必要なこと_4

「行っている」管理職と「行っていない」管理職との間で、有意に育成成功実感率が高かったコミュニケーションが2つ存在していた。ひとつは「事前に、異動先について希望を聞く機会を設けている」、もうひとつは「異動決定後に面談等の場で会話をする機会をつくっている」であった。

配属・異動の前後で、管理職が事前に希望を聞くこと、決定後に個別の場でコミュニケーションをとること、こうした実践には手間がかかるが、それに見合うリターンがある可能が示されている。

次に、職場での若手との日々のコミュニケーションについて、有効な手の検証を図表5―19に掲載した。高頻度(「毎週のように」「毎月のように」)で行っている管理職と低頻度(「半年に数回」「1年で1〜2回」「全く行わなかった」)の者を比較する形で示している。

示した項目すべてで高頻度の管理職が、低頻度の管理職よりも育成成功実感率が高い。個々の手立てについてというよりは、シンプルに若手育成についてコミュニケーションの密度が一定程度必要であるという結果と考える。現在、上司、若手ともに忌避されつつある〝飲み会〞等についても、他のコミュニケーションと同様の肯定的な結果が出ていることは留意すべきだろう。

転職経験のある管理職のほうが若手育成に自信あり?…「部下ガチャ」「配属ガチャ」「異動ガチャ」で失敗しないために必要なこと_5

ただ、職場における若手との日々のコミュニケーション別の効果と希少性の項目については、実施度合いと効果にかなりの差があったため、図にそれを含めて整理しておく。

転職経験のある管理職のほうが若手育成に自信あり?…「部下ガチャ」「配属ガチャ」「異動ガチャ」で失敗しないために必要なこと_5
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整理のうえ、明確に特殊なポジションなのは図の左上に位置する「部下に自身の知り合いを紹介する」、さらに視界を広げれば「イベントや社内外の勉強会等に、部下を誘う・紹介する」であり、高頻度で行っている管理職は少数派だがその効果は高い。若手にある種の「セレンディピティ」の提示、本人の視界の外にある機会を提供する手立てであり、新たな打ち手群として注目すべきかもしれない。

#1

文/古屋星斗

『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか 〝ゆるい職場〟時代の人材育成の科学』(日本経済新聞出版)
古屋星斗
転職経験のある管理職のほうが若手育成に自信あり?…「部下ガチャ」「配属ガチャ」「異動ガチャ」で失敗しないために必要なこと_7
2023年11月25日
1760円
288ページ
ISBN:978-4-296-11503-7
【内容紹介】
「職場がゆるくて、成長実感がないから辞めます」
こんな社員が登場するようになった「ゆるい職場」時代、若手社員の育成はますます困難になりつつあります。

本書では独自調査とヒアリングから、Z世代の価値観の「二層化」、その不安と焦りを浮き彫りにしたうえで、心理的安全性とともに今、職場に求められる「キャリア安全性」の重要性を示唆し、若手を活躍させることのできるマネージャーに必要な9つのポイントを紹介。 

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