官僚の役割とは何か?
――コロナ禍に対する政策決定のプロセスにおいて、本来は主役となるはずだった厚生労働省の官僚たち、とくに医系技官の機能不全についても触れられています。
厚労省の首脳部の一部に信じがたい保身の行動を取る者がいたのは事実です。厚労省に置かれた専門家による感染状況を分析する会議の場に、首相肝入りのGo Toトラベル継続に都合のよいデータを示す内閣官房の資料と、不都合なデータを示す専門家の資料が出た日のこと。厚労省は前者だけを公開し、後者を公開しなかったのです。
――とんでもないですね。
しかし、このような状況は厚労省という役所の通弊というより、異論を唱える官僚を次々と人事異動で処分してきた官邸主導の通弊でしょう。諫言する者はろくな目に合わないから、積極的な意見は出づらくなり、耳触りのよい情報ばかりを上げてくる茶坊主が重用される。
――そもそもの話なのですが、国政における政治家と官僚の「役割分担」というのは、具体的にはどういうものなのでしょうか。
現状の分析をしたり、プランを立てるのが官僚で、プランを決定する責任を持つのがその省庁のトップである大臣や、大臣を任命する首相。つまり政治家です。
――官僚の本分は、政治家に「実現可能な複数の選択肢」を示すこと。
質の低下を危惧する声もありますが、やはり霞が関は日本最大のシンクタンク。法令に通じ、過去のデータや経験を蓄えていて、適切な問いさえあれば、政策の選択肢をたちまちに示す力があると思います。
今回は専門家がかなり積極的な触媒の役割を果たすことでやり遂げましたが、政治家が官僚の創造力を引き出すような新しい政と官のダイナミズムを作り出さなければ、5年後、10年後の危機にすばやく対応することは難しいでしょう。
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取材・文/山田傘