高齢化問題は路上にも

新宿や上野など、むかしからそういうホームレスの人々が多く集まるエリアには、長くてもせいぜい数日、という「日雇いもしくは短期労働」の雇用があったと聞いていたが、今はどうなっているのだろうか、ということを知るために通称「山谷地区」を取材した。

知らなかったが「山谷」という地域名は約50年前に地図から消えている。

以前の先入観に満ちたイメージのように、その界隈いたるところに日銭を得た人や日雇い職にあぶれた人がぶらぶらしたり昼から寄り集まって酒を飲んでいる、という光景はまるでなく、むしろ道路も家並みも整然としてひっそりしていた。

その日は春とはいえ寒の戻りのように空気が冷え込んでいて予想していたような山谷的な全体の活気というようなものがまるでなかった。

高齢化するホームレス事情から浮かび上がる日本の行政の弱者への冷淡さ「間に仕切りのあるベンチを国外で見たことがない」〈椎名誠が見る路上〉_2
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その大前提として、今はかつてよく目にしたような日雇い仕事も少なく、同時にそういう職を求める人もかつてと比べると激減しているからだろう。さらに〝路上〟でも高齢化が進み、地方の過疎問題と同じく都会の限界集落化している面もあるということを事前に聞いていた。

いくつものNPOや宗教系の団体の支援や援助がこのあたりのホームレスの人々や簡易宿泊所に住む元ホームレスたちの拠り所になっているのは変わりないが、そこにさらに「高齢化」と「死」というものがからんできているようなのだった。