サービス業で起きた技術的失業は
どのように解決されるのか?

サービス業では物理的な定型作業が少ないため、20世紀までは機械化があまり進みませんでした。たとえば美容師の仕事は、ハサミの向きをその都度微調整しながら髪をカットするような不定形な作業が多く、機械化が困難でした。

19世紀から20世紀までに、工業製品は機械化がもたらす生産性の上昇によって大量に作れるようになりました。しかし、1人のお客さんの髪の毛をカットにするのにかかる時間は、昔も今も30分程度とほとんど変わらず、生産性の向上が見られないのです。

しかし、21世紀になってからはITがサービス業を効率化し、いくつかの職種で雇用を減らすようになりました。日本ではまだ目立った動きはありませんが、アメリカではすでに旅行代理店やコールセンターのスタッフがITによって仕事を奪われ、清掃員や介護士に転職するような事態が発生しています。

2024年「AI失業」は本当に起きる? 日本の銀行ですでに始まっている人員整理…ChatGPTはこれから人間の仕事を本気で奪いにくる_5
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要するに、サービス業内の「ホワイトカラー」(知的労働者)から「ブルーカラー」(肉体労働者)に労働移動しているのです。その際、たいていの場合賃金は低下するため、アメリカにおける賃金の中央値(中間の人の賃金)は、伸び悩んでいます。つまり、一般的な労働者は豊かになっていないのです。

アメリカでは、続く2010年代のフィンテックブームのさなかに、AIが資産運用アドバイザーや保険の外交員といった専門職の雇用を減らしていきました。これらの雇用が減ったのは、資産運用や保険に関するアドバイスをしてくれる「ロボ・アドバイザー」というAIを組み込んだソフトウェアが登場したからです。

証券アナリストは、企業業績などをもとに投資の判断に必要なレポートを書くのがおもな仕事です。こちらもAIがそうしたレポートを書けるようになったため、雇用が減少しました。

金融業は数値データを中心に扱うため、元来コンピュータに向いています。そのような事情が背景にあり、金融に役立てられるようなAIはすでに2010年代に普及していたのです。

しかし、簡単に文章を書いたり画像を作ったりすることができるAIは、当時はまだ登場していませんでした。それゆえに、金融業以外の多くのホワイトカラーにとってAIの脅威は対岸の火事だったのです。

ところが、生成AIは言葉や画像を扱うあらゆる職業を脅かしています。その職業とは、ホワイトカラーのほぼすべてです。

今後、AIによって生産性が向上する分、また別の業務が増えて雇用は維持されるのではないかと考える人もいるでしょう。しかし、銀行業を見る限りはそうはならないと予想できます。

というのも、日本の銀行員の数は2018年には約29.9万人だったのですが、2022年には26.4万人にまで減っています。ほかの産業に先駆けて、AIによる影響をこうむった銀行業で雇用の減少が起きているのです。

ほかの業種でも、同様のことが起きるはずです。これからホワイトカラーは、ブルーカラーへ移動するか、AIにはない能力を発揮するか、失業を甘んじて受け入れるか、といった選択を迫られるでしょう。


写真/shutterstock

新しい仕事AIソリューションプランナーとは?
AIに代替られ始めているクリエイターたち

AI失業 生成AIは私たちの仕事をどう奪うのか?(SB新書)
井上智洋
2024年「AI失業」は本当に起きる? 日本の銀行ですでに始まっている人員整理…ChatGPTはこれから人間の仕事を本気で奪いにくる_6
2023/11/7
990円
264ページ
ISBN:978-4815622374
人工知能(AI)で明暗が分かれる仕事、業界、日本社会…その未来を経済学者が大予測!

ChatGPTを代表格とする文章生成AI、ミッドジャーニーやステーブル・ディフュージョンに代表される画像生成AIなど、各ジャンルで高機能のAI技術が続々と誕生している今。あらゆるビジネスパーソンはそれらの概要を理解し、使いこなせなければ生き残れない時代が到来しているといえます。

さらには、最新のテクノロジーツールを自在に操れたうえで、自らのプレゼンスを高めるために、「己の付加価値をどうビジネスで生み出すか」が問われ始めてもいます。

そんななか、多くの働く人の頭にあることは、「テクノロジーによって自分の仕事が奪われるのではないか」「共生していくにしても、太刀打ちできる気がしない…」という危機感でしょう。

数年前は、「どんなに技術が進歩しても、ヒトにしかできない仕事やクリエイティビティはある」と信じて疑わなかった人々でさえ、この現実を目の前にして「いよいよ本格的に多くの人が失業するのでは?」と考えを一転させているはずです。本書は、かねてよりAIやメタバース、テクノロジーと雇用の関係性について、先見的な意見を述べてきた経済学者・井上氏が、この大変革期に「人工知能が私たちの雇用と経済に与える影響」についてやさしく語る1冊です。

AI失業 生成AIは私たちの仕事をどう奪うのか?

はじめに
第1章 生成AIが変える世界
第2章 AIで産業はどう変わるか?
第3章 人工知能は日本経済をどう変えるか?
第4章 AIと人間は共生可能か?
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