漫画を描いているときだけは、人の気持ちを考えられる
――京都精華大学の在学中に友人だった同級生が巻き込まれた事件について、漫画化して命日であるこの時期に公開されていますよね。
榎屋克優(以下、同) あれは僕が19歳のころで、事件があったのは2007年1月15日でした。同級生の千葉大作くんという子が、学校のすぐそばで通り魔にあったんです。千葉くんは入学当初から僕に声をかけてくれて、作品を見せあうようなこともしていたのでショックでしたね。
すごくいいやつだったんですよ。僕なんかはイヤなやつなので、いいやつにおもしろい漫画を描かれたらもう太刀打ちできないじゃん、と思ってて。「漫画じゃ負けねえぞ」と、勝手にライバル視してました。
――その事件後、先生の作品づくりにも何か影響はありましたか?
命についてよく考えるようになりました。あの日、千葉くんは最後まで授業を受けていて、その帰り道に通り魔にあったんです。僕も同じ授業を取っていたんですが、途中で帰っちゃってた。ちょっとしたかけ違いで何が起こるかわからないし、真面目な彼がそんなめにあって不真面目な僕が無事なんて救いがないですよ。
漫画を描くのって苦しいので、行き詰まるともうやめちゃおうかなって今でもふと思うんです。パン職人に転職しようかな、とか。でも、千葉くんはもう描きたくても描けないんだと。僕はまだ生きているんだから描けるなって、背中を押してもらっています。
――1月15日が千葉さんの命日ですよね。
もう17年前の事件なんですが、まだ犯人が捕まっていません。なので何か気づいたこと、知っていること、思い出したことがあれば警察に情報を寄せてほしいです。時効もなくなっているので。
――漫画に音楽に、そしてご友人が巻き込まれた事件にと20歳前後でさまざまな経験をされていますが、当時から現在まで、先生の中で変わらないものはありますか?
うーん。難しいですけど、人間がそこまで好きじゃないってことですかね。
――でも先生の漫画は、人間の底力というか、虐げられた人間の輝きを描いているものが多いですよね。
たしかに…なんでだろう(笑)。漫画を描いているときだけは、人の気持ちを考えられるのかなあ。だから漫画を描いてるのかも。