公平を期すためにX氏と労基署の上層機関へも取材依頼
公平性を期すため、集英社オンラインではA社社長を通して、X氏に取材を申し込んだが、1週間後の期日までに回答は得られなかった。
次に、都内の各自治体の労基署をまとめる上層機関「東京労働局 労働基準部 監督課」に、A社・X氏の問題についての労基署の対応への見解を求める取材依頼をしたところ、東京労働局担当者から電話にて、「個別の事案についての取材は受け付けていない」との返事があった。
その通話中に、個別の事案としてではなく、一般論としてリモートワークの問題に対する労基署の対応について取材をさせていただきたいと再申請したが、「一般論という前提でも取材は受けられない」との回答で、東京労働局の見解を聞くことはできなかった。
この結果をA社社長に伝えたところ、次のような所感を述べた。
「百歩譲って、弊社の言い分を聞いた後に監督官が改めてX氏に対して徹底的に調査したうえで、弊社が法律違反だと認定されたのであれば、まだ納得できたでしょう。けれど労基署は、詐欺疑惑があると訴えているのにろくに調べもせず、スルーしたんです。
率直に言って、リモートワークが絡んだ問題について、労基署側がまだきっちりと線引きをしたレギュレーションなどを作っておらず、対応が遅れているのだと思います。“労働の基準を監督する機関”でありながら、最新の働き方に追い付いていないのではないでしょうか。
弊社が被害に遭ったように、モンスターバイト側がリモートワークを偽装しておいて労基署に駆け込めば、企業側が労働基準法違反とされてしまい、支払わざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。労基署が間接的に詐欺行為に加担してしまう恐れもあるわけで、労基署に対しての不信感も強いです」
ちなみに、A社と同業界のB社社長も類似の被害経験があったことを教えてくれた。
「リモートワークで雇った新人スタッフが非常識なレベルで仕事が遅く、まともに作業していないと感じたので注意していたら、1カ月も経たずに辞めてしまいました。労基署に訴えられてもやっかいなのできちんと給与は支払いましたが、詐欺られた気分でした」(B社社長)
リモートワークという働き方は企業と従業員の信頼関係があってこそ成立するもの。だが逆に言えば、従業員側がその信頼を裏切る前提で、サボッたり詐欺的請求をしたりしようと思えば、容易にできてしまう“穴”が多いのかもしれない。
取材・文/昌谷大介/A4studio