全国の組織犯罪対策を担当している警察庁幹部

暴排条項があるため、ヤクザは飲食店やホテルなどで宴会を開けないことになっている。いまのヤクザはこの点をよく理解していて、目立つような宴会はまずやらない。暴対法の「賞揚等禁止」の規定で、暴力団同士の対立抗争で敵対する組織の組員を相手に暴力事件を起こし、服役した指定暴力団の組員については、出所祝いや慰労などの名目での金品の授受が禁じられている。

半グレはヤクザと違い、グループのメンバーの出入りが自由だ。暴力団は組織性があるが、半グレはつかみどころがない。暴力団組員は所属する組織を出たり、入ったりすることを「恥」と考えているが、半グレはまったく違う。ただ、暴力団と同様の粗暴性、資金獲得での知能性を備えており、重要捜査対象であることは間違いない。
  
警視庁組対四課時代から長年、暴力団による犯罪を捜査しつづけてきた刑事たちの間では、「なぜ、自分たちが半グレのようなガキどもの捜査をしなければならないのだ」という懐疑的な声も聞かれた。

「なぜ半グレのようなガキどもの捜査をしなければならない」警視庁が甘く見ていた半グレと暴力団の「持ちつ持たれつ」の関係_3
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しかし、池袋のチャイニーズドラゴンの乱闘事件を捜査し、一部の幹部の逮捕にこぎつけたのは、警視庁組対部暴力団対策課だった。凶悪化する準暴力団、半グレグループについて警察庁は2023年7月、新たに「匿名・流動型犯罪グループ」という広い概念で位置付け、都道府県警の垣根を取り払って捜査を強化する方針を表明した。2022~2023年に全国各地で連続強盗事件を引き起こした、「ルフィ」を名乗る指示役に率いられたグループなどを念頭に置いているという。

こうしたグループは、これまでオレオレ詐欺などの特殊詐欺を行っていたと見られていた。しかし、近年は「闇バイト」と称してSNSで若者らを募り匿名性の高い通信アプリなどで指示して白昼堂々と強盗事件を実行させるなど、警察庁は「治安上の重大な脅威」としている。
  
反社会的勢力は時代とともに変化している。警察はこうした動きに対応していく必要があり、まだまだ課題は多い。

#1

文/尾島正洋

『俺たちはどう生きるか 現代ヤクザのカネ、女、辞め時』(講談社)
尾島正洋
「なぜ半グレのようなガキどもの捜査をしなければならない」警視庁が甘く見ていた半グレと暴力団の「持ちつ持たれつ」の関係_4
2023年12月12日
900円
208ページ
ISBN:978-4-06-534460-6
「それでもヤクザになりたいという若い入門希望者は少なからずいる。警察から目を付けられるから、最近はあえて盃を与えず組員と同じ扱いにしているんだ」
警察の徹底した締め付けによって、車を買うことも、ゴルフをすることも、自分名義のスマホを持つことさえ許されない現代ヤクザ。
それでも覚醒剤、闇カジノ、風俗店など「シノギ」の道が途絶えることはない。
現実に、ここ数年暴力団員数の減少は止まり、増減なく横ばいになっている。
ヤクザ取材歴25年以上、暴力団組員、幹部、組長に取材を重ね、業界にパイプと人脈を持つ筆者が聞き出した肉声と本音。
暴力団組員は、実はその多くが国民健康保険に加入し、抗争でケガをしたときも、保険証を提示して治療を受けている。
また、ストーカーになった元組長、気に入った女性をホストクラブに連れていく理由、組長の妻と愛人の生態など、現代ヤクザのリアルに迫る。
誰もが知りたい以下の疑問に答える必読の一冊。

「みかじめ料」を払う店はなくなったのか?
バブル期のヤクザはどのくらい潤ったか?
「暴排条例」がもたらした壊滅的な打撃とは?
闇カジノはなぜ「おいしいシノギ」なのか?
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