大瀧神社で出会った二人のおじさん
そしてもう一ヶ所、福井県越前市大滝町の大瀧神社にも行ってみた。
またまたネット情報の丸写しで恐縮だが、ここ大滝町は和紙の伝統と暮らす町。
1500年前、村人に紙漉きの技を伝えた女神・川上御前を祀る大瀧神社は、“紙の神様”として崇められている。
大滝町で生産される越前和紙は日本初の全国紙幣「太政官札」に使われ、お札の透かし技法などもこの町で開発されたという。
紙幣の歴史に縁が深いため、大瀧神社はお金(紙幣)の神様としても敬われているのだとか。
天保14年(1843)に建立された社殿は、昭和59年(1984年)に国の重要文化財の指定を受けた名建築。
拝殿と本殿が一体となった複合社殿の屋根は日本一複雑な構造とされ、4層重なった檜皮葺きの屋根が不思議な曲面を見せている。
到着したのは日没間近な夕暮れどきだったので、こちらも僕の他には誰もおらず、この名建築を独り占めして堪能……と思っていたらそうではなかった。
60〜70代と思しき2人の男性がいて、地元民らしい一人が、もう片方の人にこの神社のことをしきりに説明していた。
「子供の頃はなーんとも思ってなくて、ただの遊び場だったんだけどね。この歳になって、やっと良さがわかったよ」などと言いながら。
その二人と付かず離れずの距離を保ちながら、見事な彫刻が施された社殿を見学。
ほかには誰もいなかったので、二人の話はしっかり耳に入ってきて、まるでガイド付きの観光をしているようだった。
そしていつしか僕も、おじさんたちと会話を交わしていた。
聞いたところによると、おじさんAは大滝町でずっと営業をしてきたお餅屋さん。
おじさんBは僕に、「この町は紙漉きで有名だけど、お餅の文化も素晴らしくてね。その餅を作っているのが、この人のお店なの」と紹介してくれた。
町を支えてきた紙漉き職人を、さらに下支えしたのがお餅の力なのだということだった。
すっかり感心した僕は、ぜひそのおじさんの店でお餅を買おうと思ったのだが、「今、小売りはしてないんだよね」とあっさりお断りされてしまった。
ざ、残念。
だけど、ほっこりした雰囲気のおじさんたちと楽しいひと時を過ごせて、僕は満足なのだった。
ね。これですよ、これ。
丹厳洞と大瀧神社の見学で、すっかり福井を満喫した気分になった僕は、迷わず車を飛ばして次の目的地である石川県に入った。
兼六園をはじめ、それこそ有名観光地が満載であるはずの金沢をあっさりとスルーし、一気に能登半島の先端を目指すロングドライブを始めたのだが、その話はまた別の機会に。
金沢も行ってみたかったけどね。
今は北陸新幹線が整備され、東京から行きやすくなったから、そのうちまた違う形の旅で必ず来るぜ! と心の中で言い残しながら。
写真・文/佐藤誠二朗