インチキがバレた瞬間
注目の実験は水に7種類の薬品を混ぜた液体に火をつけたところ、見事燃え上がったため、成功となるのだが、物言いがついた。
実は目を皿のようにして事の行方を注視していたスタッフがいたのだ。それは18名の航空本部の製図工だった。
「十八枚のスケッチと実験成功の薬瓶を照合したところ、スケッチの中に成功した薬瓶は見あたらず、逆に昨日のスケッチの中から一本の薬瓶が失われているのが分かった。(中略・・)かわりにスケッチとは異なる薬瓶が一本紛れていた。ガソリンとなった薬瓶だった。たしかに、すり替えが行われたのだった」(引用:山本一生『水を石油に変える人 山本五十六、不覚の一瞬』)より
そこで、再度実験が行われるが、結局インチキであると結論づけられる。
そもそも水素と酸素の化合物で、もしガソリンが生成されるとしたら、酸素が炭素に変化しなければならない。そうした当たり前の科学知識を山本五十六ともあろうものが持ち合わせていなかったのか?
燃える闘魂・アントニオ猪木も、生前はサトウキビの絞りカスから新たなエネルギーを生み出そうと奔走するものの、事業は失敗し、多額の借金を抱えた。
しかし、アントニオ猪木流に言うならば、「出る前に負けること考えるバカがいるかよ!」(猪木名言)であり、山本も常識的に重々承知していたが「やってみなければ結果は分からない!」という心境だったのかもしれない。
山本五十六が、一縷の望みを託した、まさに人間味を垣間見せた瞬間でもあったのだろう。
取材・文/集英社オンライン編集部
参考:山本一生『水を石油に変える人 山本五十六、不覚の一瞬』(文藝春秋)