山本五十六を騙した男
男の名は、本多維富(ほんだ・これとみ)。本多は「水からガソリンを作る」という何とも信じがたい発明に成功したという触れ込みで、時の政財界人、大学教授、公爵、大手メーカーなどが後ろ盾となり、名を上げていた。
そのアンビリーバボーな話は、海軍次官の山本五十六の知るところとなる。そして彼は真偽を確かめるために実験を命じたのだ。
実験が行われたのは、1939年(昭和14年)1月、海軍省の庁舎。
そもそも本多維富は、「藁から真綿を作る」など、非科学的な製造法を周囲に信じ込ませてきた前科があった。そのため彼のことを詐欺師、ペテン師と断定する、否定的な立場の人間も数多く存在した。
実際、山本五十六に実験を中止するように直談判した者もいるそうだ。
それでも、GOサインは出た。
燃料不足が差し迫った状況の中で、山本はその真偽を確かめるという使命感以外に、わずかな可能性にロマンを感じていたのかもしれない。