フランスのナイフ専門雑誌が火をつけ、日本へブームが逆輸入された「肥後守」

かつては老若男女に幅広く親しまれた、日本の伝統的な折り畳みナイフ「肥後守(ひごのかみ)」。
時代の趨勢(すうせい)とともに、「肥後守」は徐々に生産縮小を余儀なくされてきたのだが、2012年にフランスのナイフ専門誌『PANORAMA』で10ページにもわたる特集が組まれたことを機に、まずは彼の地で人気が沸騰する。
フランスにも「OPINEL」という130年以上の歴史を誇るレトロでベーシックな折り畳みナイフがあり、世界中のアウトドア好きの間で定番アイテムとなっているが、そうした伝統的な道具に対するフランス人の愛着が、きっと「肥後守」に対しても向けられたのだろう。
そしてそのブームを逆輸入する形で日本国内でも再び注目されるようになり、一時は生産が追いつかないほど、国内外からの注文が殺到するようになったという。

その人気はいまだ冷める気配なく、ますます盛り上がるアウトドアブームと連動しながら、愛用者を増殖させ続けているのだ。

ワールドワイドなブーム継続中! 「肥後守」ナイフの古風で不思議な魅力とは_a
刃部にSK鋼という鋼材が用いられている「肥後守 本割込(大)」は、ホームセンターなどでもよく売られている

僕も昨年、1本買ってみたらその魅力にやられ、現在は類似商品を含めて4本を所有するようになった。

だが実は、僕は中高生の頃にも「肥後守」を愛用していたのだった。

僕は1969年生まれ。中学生だった1980年代当時も「肥後守」はすでに十分古風な道具であり、周囲の友達を見ても使っている人はほとんどいなかった。
ではなぜ僕は「肥後守」を愛用していたのかというと、剣道部員だったからなのだ。

4本の細い竹を組み合わせている剣道の竹刀は、使っているうちに打突部の竹がどうしてもささくれ立ってくる。
そのままにしているとささくれが飛び散り、相手や自分の目に入ったりして危険なので、竹刀は日常的に手入れしなければならない。

当初は、普通に文房具のカッターナイフを使っていた。
でも刃の薄いカッターは、竹の繊維に沿って刃が深く内側に食い込んでしまいがちで、竹刀の手入れには不向きだった。
表面の小さなささくれだけを軽く削ぎ落とすためには、ある程度肉厚の刃を持つナイフの方がいいということに気づいた僕は、家にあった昔ながらの「肥後守」を使うようになったのだ。

剣道からは高校卒業とともに離れた僕だったが、今から9年前、昔の友人に誘われて東京・世田谷区内の剣道場に入門。
以来、体力と相談しつつもずっと稽古を続けている。ちなみに僕のような復帰組の中年剣士は世の中に結構たくさんいて、剣道界では“リバ剣”(リバイバル剣士)などと呼ばれている。

そして昨年、ふと昔のことを思い出し、竹刀の手入れ用に新しく「肥後守」を入手。
僕にとっては何十年かぶりの「肥後守」は、近所にある昔ながらの金物屋で購入した。
さっそく竹刀のささくれに当てて使ってみたところ、案の定切れ味抜群で、「さすが『肥後守』……」と感心した。
しかし同時に、「なんかちょっとだけ違うんだよな〜」という違和感も抱いた。
人間の手というのはエライもんで、何十年も前に愛用していた道具の感触を、いまだに何となく覚えているものなのだ。

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僕が最初に買った“「肥後守」タイプ”のナイフ