ビートルズがいなければ
ソ連の崩壊は遅れていた

ヴァカルチューク ロシア軍は初日に、ウクライナの大都市を爆撃しました。彼らが言っているように、戦略的に大事な軍事施設ばかりではありません。都市にとっての重要インフラも、何でもない他の場所も爆撃しました。それで女性や子どもも含め、大勢の死傷者が出ています。15人から20人ほどの子どもたちが被害に遭いました。ひどい状況で、理性的に話をすることさえできません。心と頭脳がずたずたにされる思いです。

金平 あなたの音楽は大好きですが、こんな危機の中でのアーティストの役割とは何なのでしょうか? あなたは音楽で世界が変えられると思いますか?

ヴァカルチューク
 音楽はすでに世界を変えてきました。覚えておられるでしょうが、ソ連が崩壊したときも、それはテレビ局やロックなどが一役買っています。60年代、70年代にビートルズやローリング・ストーンズなどのバンドがいなければ、ソ連の崩壊はずっと遅れていたはずだと思うからです。音楽や精神的なものは、人々の心に浸透します。人々の意識をはるかに深く変えていきます。

金平 実は私自身、1991年にソ連が崩壊した時に、モスクワの特派員としてその出来事を取材していました。友人にはモスクワのミュージシャンたちもいました。当時抵抗していたのは彼らでした。彼らが保守派のクーデターに対して抵抗した。

ヴァカルチューク しかし、もはやそうなっていないですよね。

金平 はい、もはやそうなっていないのはわかっていますが、ロシアやベラルーシで何かが起きて欲しいとも思っています。近い将来そういうことが起きるという希望はありますか?

ヴァカルチューク
 はい。まず何よりも、ロシアとベラルーシの人々には、大勢で街頭に出てきてほしいと思います。心ある人たちはいるはずだという希望がなおもあるし、いつかは、警察に殴られるかもしれないという恐怖が、悪い人間になることへの恐怖にとって替わられていくと思うからです。

「ビートルズがいなければソ連の崩壊は遅れていた」「国土を失ってしまえば何もかもなくなります」ウクライナの清志郎が日本人記者に語ったこと_2

そして彼らこそがこの事態を止める。実は、我々には何もできないんですよ。僕は兵士ではないし、銃を撃ってはいないと言うことはできるかもしれないが、それは沈黙へとつながります。この痛みに加担していることになってしまう。神道や仏教など日本の文化や宗教にこんな考え方があるのかどうかは知りませんが、キリスト教やユダヤ教では、何かをするよりも大きな罪は、冷淡、無関心でいること、中途半端でいることだという考え方があります。

だからロシアの人々には、ウクライナの軍やレジスタンスよりも、また欧米の支援よりも、自らの未来を変えるのは、何より自分たちロシア人にかかっているんだということをわかってもらいたい。この先、どんな独裁者にも人生を台無しにされまい、とね。

金平 最後の質問です。ロシアの侵攻が始まった直後に、あなたが街頭を走り回って、人々に「侵略に抗議しよう」と訴えたことに衝撃を受けました。あの時、あなたはどんな思いでしたか?

ヴァカルチューク そうですねえ。我々はみんなが何らかの危惧を抱いていました。死ぬかもしれない、けがをするかもしれない。人生が台無しにされるかもしれないので、戦争が怖いのは当然です。しかしここは我々の国土です。我々の国土なので強い意志を持っている限り降伏はしない。失うものは何もありません。

国土を失ってしまえば何もなくなります。つまり、すべてかゼロか、です。そして我々はすべてを望みます。

金平 わかりました。私は世界中の人々が連帯することを信じています。

ヴァカルチューク どうもありがとうございます。日本の皆さんにひとこと言わせてください。まず、第一に、僕は日本文化の大ファンです。皆さんの心、皆さんの人柄、皆さんの習慣、すべてです。日本の大きな都市に行ったことがあるし、できるだけ早くまた訪問したいです。

そして第二に、我々は戦争で勝ったらその後どうするのかという話をよくします。いろんなものが破壊された後ですね。私なら、日本は戦後、完全に破壊されていたが、彼ら日本人の気概は高く、一世代で国を再建したと言います。我々にはいい模範があるんです。

金平 本当にありがとう。