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いくつもの理不尽な出来事

2月26日(土)。朝、7時にチェルニウツィ郊外の宿舎を出て、きのう下見した生中継場所の市庁舎前広場に移動。オルガとドライバー、僕ら4人を乗せてミニバスで。20分あまりかかる。この町の道路は石畳のところが多いので車は揺れっぱなし。僕は慣れているが都会育ちのKはぶつぶつ文句を言っている。

『報道特集』の中継はこちらからは3回のタイミング。冒頭の挨拶とVTRのリードと、3分程度の短い状況解説。あとはギリギリの時間まで伝送した素材の編集に、東京がどれだけがんばってくれるかにかかっている。オンエアまで短い時間しか残されていなく完全に徹夜だろう。祈るような気持ちだった。

広場に面した通りのATMの前にはすでに何人かが行列を作って並んでいて現金を引き出そうとしていた。それ以外はこの周辺に関する限り平常通りの風景のようにみえた。午前9時からのリハーサルに備えて場所決めなどをしていたら、何やら様子がおかしい。

僕はミニバスに戻って原稿を書いていたのだが、みると僕らのチームに複数の男たち(地元警察官)が接近して来て何やら話をし始めているではないか。車に戻って来たオルガとK、Iに聞くと、「市庁舎は戒厳令が出ているので撮影禁止だ、ここでの中継は許さない」と言ってきたという。

「空襲が始まる。早く逃げて!」戒厳令、ATMの行列、防空壕…2023年2月、侵攻が始まったウクライナで現地記者が見たリアル_1
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ところがオルガが機転を利かせてキエフの警察本部に直接「通報」して許可を得たら、地元警察官らは認めざるを得なくなって、すごすごと引き下がっていったのだという。オルガの一本の電話ですべてがクリアされたのをみて、僕はモスクワ特派員時代のいくつもの理不尽な出来事を思い出した。9時からのリハーサルも無事終了。あとは午前10時30分からの本番まで、車のなかで休んだ。