「偉大なるロシア」思考

本番の冒頭で僕は次のように言った。

「こんばんは。戒厳令が敷かれているウクライナ南西部の都市チェルニウツィに来ています。ロシアが本格的なウクライナ侵攻を開始した翌日に私たちは、ルーマニア国境から、ここに来ました。途中、多くのウクライナ人が、避難民として祖国から逃れていく姿を目の当たりにしました。首都キエフは今、陥落の危機に直面しています。

JNNの取材チームはキエフにとどまって取材を続けています。戦争によって平和な生活が蹂躙されるという歴史的に重大な局面に私たちは今立ち会っています。現場で何が起きているのか、総力でお伝えします」

挨拶の後は、オンエアの中身をIが設定したスマホの送り返し映像で必死にみていたが、あれほどの時間の追い込みで送った素材のエッセンスがきちんとセンス良く編集されているのを見て何だか胸が一杯になった。その後に言いたかったことは、ソ連の崩壊を直接現場で取材した記者のひとりとして、プーチンが今とっている行動がいかにパターン化したソ連時代の「偉大なるロシア」思考と同質なものかということだったのだが、果たして伝わったかどうか。

これは「ロシア人とは何か。ヨーロッパとは何か」というアイデンティティーの本質にも直接関わる問題だと思う。ロシア文学や、ロシア文化の質の高さ、ロシア正教の問題、スラブ民族の一体性など、数えきれないほどの多くの課題が含みこまれている。この回の『報道特集』は、その他の取材も含めて内容がなかなか充実していたように思った。来た甲斐があったか。いや、まだ何も始まっていない。これからだ。今後の取材が重要だ。

「空襲が始まる。早く逃げて!」戒厳令、ATMの行列、防空壕…2023年2月、侵攻が始まったウクライナで現地記者が見たリアル_2

その後、ランチをとって今後の取材計画を練る。この町の風景を見る限り、business as usualにみえるが。その後、水や食料やらの買い出し。ゼレンスキー大統領のロシア国民に向けたSNSメッセージが刺さる。とりわけロシア国営テレビのプロパガンダ御用機関としての役割について言及している箇所。何とこのチェルニウツィにもCurfew(夜間外出禁止令)が発令された。夜の10時から朝6時まで。宿舎の食堂も午後8時に閉まることになった。