屋外のサイクリングは
疲労感よりも爽快感が上回る!
さきほど紹介した10名の方は、週に3.6日ほどの自転車通勤を行っていました。往路と復路の間には仕事のため8時間以上の間隔があり、往路と復路は独立した運動と見なすことができます。そのため、この方たちは週に7回以上の高頻度で有酸素運動を行っていることになります。しかも自転車通勤には高強度の運動も含まれていました。
しかし、自転車通勤をしたことのない読者の方には、仕事の前後に運動をするのはつらいのではないか、と思う人が多いかもしれません。私たちは、この10名の方に自転車通勤についてのアンケート調査を行いました。すると、回答から「疲労感よりも爽快感が大きく上回る」ことがわかりました(図1-4)。
さらに、さまざまな年齢層の男女の方々にご協力いただき、同様の運動強度と感覚テストを行いましたが、その結果からも、自転車では運動強度80%くらいまでの走行でも、「つらい」「疲れた」という声よりも「爽快」「楽しい」という肯定的な感想が上回ります。自転車では、80%くらいまでの運動強度では、心拍数が高い割にはつらさを感じにくいのです。
ただし、これには一つ重要な条件があります。それは、実際に屋外で走行することです。実は、室内に固定された「自転車エルゴメータ」を用いた実験では、運動強度の低い段階から「つらい」「暑い」「脚が疲れた」「嫌になった」など否定的な感想が多く聞かれるのです。
自転車エルゴメータは、ジムなどにあるフィットネス・バイクのようなものですが、ペダルをこぐさいの負荷を任意に変えることができます。
屋外と室内のこの違いは、屋外のサイクリングで味わえる風やスピード感が影響しているのではないかと私は推測しています。時速20キロメートル近い自転車走行に伴う風を受けて、身体が冷やされることで暑さや疲労感が和らぎます。
スピード感や景色が爽快感をもたらし、また、周囲の交通状況に対して意識を向ける必要があることにより疲労感が軽減されるのでしょう。そのため、スポーツジムなどに設置された「フィットネスバイク」などのトレーニングよりも、通勤などで、生活に自転車を取り入れることをすすめます。
運動で感じる疲労度を、「非常にらく」から「非常にきつい」までの言葉で表し、それを6〜20の等級で示したものを「主観的作業強度」と呼びます(図1-5)。これは英語で「Rating of Perceived Exertion」といい、被験者が感じている努力の度合いを数値として表現してもらう手法です。椅子などに座った安静状態を6、運動の限界状態を20としたとき、被験者に運動中の状態を答えてもらいます。
私の研究室で大学生男女12名ずつを対象に行った調査では、主観的作業強度で「ややきつい」(等級13)と感じるレベルで自転車運動を行った場合、屋内のフィットネスバイクでは「仕事率」が平均60ワット(W)でしたが、屋外の実走行では平均80ワットに達しました。
仕事率は重いペダルを高速に回転させるほどその値が高くなり、運動強度に対応します。「ややきつい」という同じ疲労感でも、屋外でのサイクリングは、自転車エルゴメータよりも高い強度の運動ができることが明らかになりました。
図/書籍より
写真/shutterstock