自転車を生活に取り入れるだけで
実際に、自転車通勤は健康づくりに効果があるのでしょうか。
日本では、欧米に比べて自転車専用道が少なく信号機が多いため、一定の速度を保った状態で自転車走行することが難しいという特徴があります。そのような交通事情の中で自転車通勤を続けている人たちが、どれくらいの走行速度・時間、運動強度で通勤を行い、その結果、どのような健康づくりの効果を得ているのかを調査した結果を紹介します。
この調査は、東海地方在住で自転車通勤を日常的に続けている平均年齢37歳の男性10名にご協力いただき行いました。北京オリンピックで日本のマウンテンバイク代表チームの監督を務められた西井匠さん(現「サイクリストの秘密ラボ・flasco」主宰)、自転車部品メーカーの株式会社シマノ、名古屋市立大学などの共同研究グループで行ったものです。
被験者10名はクロスバイクやロードバイク、マウンテンバイクなどのスポーツ自転車で通勤していましたが、自転車競技に定期的に参加するために、通勤を練習の一環にしている人はいませんでした。
自転車通勤の頻度は平均で週に3.6日、片道の距離は13.3キロメートル、走行時間は40分ほどです。また、自転車通勤以外の運動を日常的に行っている人は3名(水泳1名、週末のサイクリング2名)、それ以外の7名は自転車通勤だけが日常的に続けている運動です。
さて、この被験者たちの自転車通勤時の運動強度はどれくらいでしょうか。平均の運動強度を測定すると56%でしたが、そのなかには87%という高い運動強度が含まれていました。
平均時速は約20キロメートルとそれほど速くなかったのですが、詳しく分析すると停止・発進の繰り返しや、上り坂で心拍数が上昇して運動強度が高くなっていました。健康づくりで推奨される「50%以上の運動強度」を、往路の走行時間の76%、復路の65%で達成し、しかも70%以上の高強度が往路で22%、復路で13%含まれていました。
自転車通勤には、高強度の運動を間欠的に行うインターバル・トレーニングの要素が含まれている実態が明らかになりました。
それでは、肝心の健康状態はどうだったのでしょうか。血糖値やコレステロールの数値はいずれも正常の範囲内で良好でした。コレステロールには、動脈硬化を促進する悪玉のLDLと、逆に動脈硬化を抑制する善玉のHDLがあります。LDLとHDLの比が2.0以上は動脈硬化が進んでいるおそれがあります。
自転車通勤をしている被験者たちのLDLとHDLの比の平均値は1.68と2.0を下回り、エネルギーの余り具合を反映する中性脂肪もとても低い値でした(図1-3)。
そして運動能力をあらわす「体重1キログラム当たりの1分間の最大酸素摂取量」は、55.9±8.4(ミリリットル)という値になり、これは同年齢層の男性の基準値を大きく上回り、持久力に優れているという結果が得られました。
このように、自転車を通勤に取り入れるだけで、持久力を高めることができ、さまざまな健康指標でもよい値を出すことができます。これが、生活のなかに自転車運動を無理なく取り入れることをおすすめする理由なのです。