Hulu買収でDisney+は変わることができるか?
ウォルト・ディズニーは今年11月に動画配信サービス「Hulu」の全株を取得すると発表した。株式の33%をコムキャストから86億ドルで取得するというものだ。1兆円もの巨額取引である。
Huluはウォルト・ディズニー、コムキャスト、21世紀フォックス、タイム・ワーナーが共同で出資して設立した。ディズニーがフォックスを買収し、タイム・ワーナーを取得したアメリカの大手通信会社AT&TがHuluの持ち株を放出したため、ディズニーの持ち株比率は7割に近づいていた。
ディズニーによるHuluの完全子会社化を進言したのもアクティビストだった。日本ではセブン&アイ・ホールディングスに祖業のイトーヨーカ堂を売却するよう求めたことで知られる、サード・ポイントだ。
サード・ポイントはHuluを完全子会社化してDisney+と統合するよう要求していた。この要望は合理的だ。
デジタル動画レコーダーを手がけるTiVoによると、アメリカの消費者は一人平均9.86もの動画配信サービスを利用していることがわかった。昨年の調査では8.8だった。ウォルト・ディズニーの主戦場であるアメリカ市場は、すでに動画配信サービス契約数が飽和状態を迎えており、後発であるDisney+の入り込む余地が少なくなっている。HuluとDisney+を統合し、コンテンツ力を拡大したほうが差別化を図りやすいのだ。
さらにウォルト・ディズニーには苦い経験がある
現在のCEOであるボブ・アイガー氏は、かつてピクサーやマーベルなどの買収を手がけて会社の成長をけん引した立役者だ。しかし、後任のボブ・チャペック氏は、Disney+に本格ホラーを導入するなど、ファミリー層を獲得するという従来の路線を変更した。
また、動画配信のドラマを強化して映画を軽視した結果、マーベルなどの主力コンテンツの持ち味が失われた。
映像事業もテーマパークに事業も、ウォルト・ディズニーはコンテンツの力で消費者を魔法にかけ、熱狂させてきた。それがいつの間にか、動画配信という枠組に自らを押しこんで、コンテンツ力を失ったのだ。
Disney+とHuluを統合すれば、ターゲットの補完関係が成り立つ。ユーザーの獲得や配信インフラをHuluが手掛け、ウォルト・ディズニーがコンテンツ作りに経営資源を集中するという切り分けも可能なはずだ。
トライアン・ファンド・マネジメントとの対立は厄介なタイミングでやってきた。ボブ・アイガー氏が再びCEOとなり、新たな組織として生まれ変わろうとしていたからだ。
委任状争奪戦は経営陣の負担が重く、事業運営に支障をきたす。トライアンのトップに立つネルソン・ぺルツ氏と、水面下で激しい交渉を重ねているに違いない。その動向には今後も注目だ。
取材・文/不破聡