なぜ男性は座って用をたすようになってきたのか

ある洗剤会社が「男性のトイレスタイル大調査!」というのを実施した。対象は20〜60歳代の男性500名である。それによると近年、「小用をするときには座る派」が49%にのぼり、「立つ派」45%を超えているというのだ(2018年)。

もちろん、男性は公衆の面前で用をたすわけではない(酔っ払って電柱などに立ち小便することはダメですよ!)。だからあくまでも自宅の洋式トイレでのスタイルを回答してもらった結果である。年齢別では30歳代と、意外にも60歳代で「座る派」が多かった。

「立つ派」にその理由を問うと、案の定「習慣だから」というのが90%近くで圧倒的。続いて「男は立つものだから」というプライドによる理由が30%ほどであった。やはり古来の慣習やルールが「内的側面」になっているがゆえに立つスタイルに固執する人が多いようだ。一方、「座る派」に変わった人々の中には、「身近な人から座って欲しいといわれたから」というのが20%近くあった。

ここでひとつ気づくことがある。「自宅のトイレ」と「家族や恋人など身近な人々と共用している」という事情が、立つ習慣を変えることに影響しているということである。エスカレーターの利用法が変わらない原因の中に、「周囲の人はみな赤の他人」「他人の不利益など知ったこっちゃない」というのがあった。

それと真逆なのである。自宅のトイレはプライベートな空間である。しかし同時に家族などと共用する(トイレが複数ある大邸宅もあろうが)。その家族から「座ってしてよ」と言われると、よほど頑固な人でもない限り、座るスタイルに変えざるを得ない。どうやら、公共の場でなく「私的な空間」で、赤の他人でなく「親密な人々」と関わっている場合には、その「親密な人々」の苦情を受け入れて習慣を変えやすいようである。

なぜ男性は座って用をたすようになったのか…「座る派」に転向した人々の4割が実は本心では「立ちたい」と思っている事実_2

古来の「立つスタイル」では、便器の外に尿ハネが飛散することが近年問題視されている。汚しがちな箇所を尋ねると、70%くらいの人々が「便器のふち」と回答した。他には「床」「便座の付け根付近」「便器の外側」と続いている。汚れを放置していると家族や恋人などから𠮟られるのだろう。

汚してしまったときには6割の人が「いつも拭いている」らしい。そういうことが続けば、いっそ座るスタイルに変えた方がましという選択になるだろう(もちろんそういう人々も、公衆トイレでは立ってするだろうが)。ひとり暮らしであっても、自宅のトイレを清潔に保ちたければ、座ることを選択するだろう。つまり親密圏の人々に注意されることだけが理由でなく、「自分の利益のため」というのもルール変更の理由になっているのである。

「座る派」に転向したきっかけとしては他に、「引っ越した」「自宅を新築した」「結婚した」などが挙げられている。新居のトイレは汚したくない、配偶者に嫌がられたくない、などの動機がよくわかる。

いずれも突き詰めていえば自分の利益に関わることである。このように、赤の他人と共用する公共物エスカレーターの場合とは真逆に、自分自身や自分の所有物は汚したくない、自分の配偶者や家族とは永続的な関係を保ちたいという動機がはたらくことによって、多くの「立つ派」が「座る派」にあっさりと転向したのである。

とはいえ、調査した対象の男性の7割が、やっぱり「立つスタイル」のほうが好きと答えている。「座る派」に転向した人々の中の4割も、実は本心では「立ちたい」と思っているという。本音は立って用をたしたくても、家族や身近な人との関係を維持する、そして自分の家は汚したくないという自己利益の方が勝った結果、「座る」方にシフトしたのだろう。