「うちは経験豊富な選手ほど練習でも試合でも、手を抜かない」

昨年6月末に3度目のヴィッセル監督に就任した吉田孝行のもとでスタートした2023シーズン。開幕にあたり吉田がテーマに掲げたのが『競争・共存』だった。

「昨年の覇者、横浜マリノスの戦いを見ていても、毎試合、90分間を通してインテンシティ高く戦えていたことが優勝に辿り着いた理由の1つだと分析していました。いや、落ちないどころか交代選手によって、チームが試合終盤に向かうにつれてパワーアップしていく感すらあった。

それは先発の11人に限らず、チーム、グループとして戦えていた証拠。その姿を参考に我々も、チームとして競争・共存をテーマに一丸となって戦いたい。そのためには若い選手を成長させていかなければいけないし、チーム全体としていかにインテンシティを高められるかが鍵になると思っています」(吉田監督)

昨季の就任後、3連勝でスタートした後、3戦勝ちなしという苦しい状況下で、選手と膝を突き合わせて話し合い、前から圧力をかける、縦に速いサッカーにシフトチェンジ。今シーズンはその戦いをベースに、攻守をより際立たることに力を注いできた。

「単に走り回るとか、球際に強くいくだけではなく、あくまで自分たちのサッカーをすれば、データとしても相手よりスプリント回数が多くなった、走行距離が増えた、というのが理想。だから僕は選手に『走れ』とは言わないし、自分が求める戦術ですべき役割を当たり前にやることしか求めていない。それによって戦術を浸透させることができれば必然的にインテンシティの高いチームが出来上がると信じています」(吉田監督)

結果的に、チームスタイルを勝利につなげるために設けられたハードワークの『基準』は、チームに過去にはないほどの熾烈な競争を生み出す。アンドレス・イニエスタでさえメンバー外に追いやられるほどに、だ。その事実は、選手たちの「もっと、もっと」という意欲を駆り立て、チームにアラートな緊張感を漂わせた。牽引したのは、前述の大迫や武藤をはじめ、山口蛍や酒井高徳といったベテラン勢だ。

今夏、チームを退団したイニエスタと三木谷浩史会長 写真:松尾/アフロスポーツ
今夏、チームを退団したイニエスタと三木谷浩史会長 写真:松尾/アフロスポーツ

「うちは経験豊富な選手ほど、練習でも試合でも手を抜かない。その姿を見て僕たちがやらないわけにはいかない」

そう話したのは今季、ここまで出場停止の1試合を除く全試合に出場してきた初瀬亮だが、その言葉通り、ベテラン勢がいっさい手を緩めずに戦い続ける姿は、若い選手に伝播し、シーズンが進むにつれてチームはより結束を強くした。