全国一斉に予選が行われたとしたら、関東が独占しかねない

2022年に行われた箱根駅伝予選会をもとにして話を進めると、10位通過だった国士舘の上位10人のタイムの合計は10時間48分55秒だった。チーム内10位は福井大夢で1時間06分14秒だった(総合で212位)。

ちなみに次点の神奈川大のチーム内10位の選手は石口大地で1時間06分15秒。つまり、当落線上の大学はハーフマラソンを63分から66分台で走れる選手を10人以上そろえなければ通過できない。

これは、地方の大学にはとてつもなく高いハードルだ。トラック種目はともかく、ハーフマラソンを強化計画に入れるのが難しいのである。

なぜなら、ロードの強化の基本線が10000mになるからだ。たとえば、全日本大学駅伝の予選会は関東、関西、九州などのようにブロックごとにトラックの10000mで行われ、チームの上位8人の選手の合計タイムによって通過校が決まる。

2023年の7月までに行われた予選会の記録を見てみると、関東以外では大阪経済大が4時間04分22秒65でトップの記録を残している。

箱根駅伝が圧倒的な“コンテンツ”になった弊害とは。「関東以外の大学が勝つことは100%ない」2024年記念大会では全国の大学にチャンスがあるのになぜ?_2

さて、関東はどうだったか。

トップ通過の城西大のタイムは3時間57分35秒40で、8位で次点の立教までが3時間台のタイムをマークしている。全国一斉に予選が行われたとしたら、関東が独占しかねないのである。

もうひとつ、出雲駅伝に目を転じてみよう。九州地区の予選会にあたるのが、前年12月に行われる九州学生駅伝対校選手権、いわゆる島原駅伝だ。

出雲と同じ6区間で争われるが、最長は4区の9・38㎞で、やはり5㎞から10㎞の強化に特化することになり、ハーフマラソンに対応するカレンダーになっていない。そもそも10月にハーフマラソンに挑む強化日程が設定されるのは、関東学連の学校だけなのだ。

箱根駅伝の全国化が発表されたのは2022年6月のことだったが、わずか1年とちょっとではハーフマラソンに対応できる選手を10人以上育てるのは現実的に不可能なのである。

強化現場の指導者たちは、どう捉えているだろうか。全国大会の常連、第一工科大の岩元慎一総監督は「西スポWEB OTTO!」の取材に対してこうコメントしている。

「地方で20キロ走れる選手はいない。(全国化が)5年くらい続けられるならともかく、1回こっきりででは…」

これが本音である。全国化は100回大会限りのため、将来を見据えた強化もできないというわけだ。

鹿屋体育大学の松村勲監督も、メディアをはじめとした盛り上がりについて、冷静な目を向けている。

「感情で『チャレンジだ』と言っても…。もっと目指すべきことに注力して成績を残すことの方が大事。関東学連に右往左往させられている。地方の大学が巻き込まれているだけ」

なかなかシニカルなコメントで、他地区の大学からすると、現状では箱根駅伝予選会出場よりも、全日本大学駅伝、出雲駅伝に出られる価値の方が高い。