「男の」子への性的虐待

子ども、特に男の子への性的虐待について考えておくべき点は、無性的で無垢なイメージの子どもと、性的な存在としても見られる子どもとのつながりについてです。男子という言葉を国語辞典でひくと、「男である子ども」とあります。無性的な子どものイメージは、男の子・女の子と二分されることによって性的な子どもとして表れてきます。

日本では、赤ちゃんが生まれると、基本的には14日以内に出生届を出すことになっています。そこでは生まれてきた子どもの性別を書くことになっています。生まれてすぐ割り振られて、子どもは男の子か女の子として社会に迎えられることになります。このことは、出生時の性別割り当てと言います。もうすでに男女の二分法の中で成長しなければならない状況に置かれています。

生まれたての赤ちゃんから成長していき、幼稚園や保育園に入園し、小学校へ入学し義務教育の9年間を過ごし、進学や就職を経て大人の男性として生きていくのが一般的に想定されていることだと思います。当たり前のことを書いているようですが、大人の男性になっていく成長過程が設定されている社会では、成人男性と男子の間は連続的に続いているので、男の子の性暴力被害もまた見えづらくなっているのです。

「男の子だったらこれくらい大丈夫」という落とし穴。1年間に7万2000人余りの男の子が性暴力被害の衝撃…なぜ日本では男児への性加害は深刻視されてこなかったのか_3

思春期において

警察庁生活安全局少年課が2020年度に検挙した虐待事件において、性的虐待は、被害児の性別との関係は明らかではありませんが、加害者の性別は男性が293名、女性が12名となっています。

また、先述の、内閣府が行った「男女間における暴力に関する調査」では、「無理やりに性交等をされた被害経験」は、男性が被害者であるときの加害者の性別が女性である割合は52.9%で(女性被害者では0.8%)、同様に男性被害者の場合、加害者との関係は「通っていた(いる)学校・大学の関係者(教職員、先輩、同級生、クラブ活動の指導者など)」が23.5%で最も多くなっています。全く知らない人が加害者となるのは、男性が17.6%、女性が11.2%で、多くは何らかの関係性がある中で被害を受けていました。

全国の児童相談所、市区町村の福祉部門を対象にした調査で、家庭内の男児の性暴力被害事例を分析したところ、女児と比較して「実母」の該当率が突出して高いことが示され、実父以外の父からの被害が相対的に少ないことが示されています。

国内では被害児の性別に着目した加害者との関係が分かる報告が少ないのですが、国外では複数の研究において男性加害者は女児への加害が多い一方で、女性加害者は男児・女児共に加害を行っていることが指摘されています。

2021年にNHKが行ったアンケート調査では、男性被害者292人が回答しました。被害に遭った年齢は20代までが8割近く、過半数が10代となっています。また、加害者の性別は男性が70.5%、女性が16.4%、男女ともいたと答えた人が10.3%となっています。

国内で報告されている調査を見ると、男性が加害者となる数は多いものの、女性加害者も一定数おり、見知らぬ人からの被害から家庭内の被害までさまざまであることも分かります。加害がなければ被害はないのですから、加害者の属性がさまざまであり、その加害形態もさまざまだと考えるべきでしょう。

例えば、母親が自室でマスターベーションをしている息子の姿をのぞいていたり、男性が小学生の孫の布団に入り身体を撫で回しペニスを触っていたりすることもあります。また、息子のペニスを撫で回し勃起や射精を強要する男性もいます。さらに、性的いじめのような状況では、セックスをさせて、それを見せ物とすることや、人前でマスターベーションをさせるという加害の仕方もあります。

他にも肛門に指を思いきり突っ込んだり、人前で下半身を曝け出されたりといったこともあります。こういったことは「おふざけ」として、「カンチョウ」や「ズボン下ろし」といった男の子の遊びのように矮小化されてきましたが、被害児にとっては非常に侵襲的な出来事となり得ます。