個性的に見えて、実はありふれている

「裸になることに抵抗はなかった」(矢野)ゲイと女子大生とホストの三角関係を体現した矢野聖人と錫木うり。映画『車軸』に存在するリアルな歌舞伎町_8

──エモーショナルなシーンも多かったです。おふたりのお気に入りは?

矢野 これ、一緒だったらうれしいな……。夜の花園神社で煙草を吸うシーン。

錫木 私も! 大好きなんです。

矢野 毎日、心も身体も追い込まれる重いシーンの撮影が続くなか、あそこは開放的な場所でフランクに笑いながら話していて。

錫木 撮影中のささやかな幸せでした。

矢野 最後はもう、アドリブで話してたし。ね? あ、「ね?」とか言って、潤ちゃんになっちゃった(笑)。

──劇中で潤はオネェ言葉を使っていますね?

矢野 撮影中は合間もずっと潤の喋り方になっていました。

錫木 私はまた潤ちゃんに「あんた!」って言われたいですもん。真奈美に対しての口調はきつく感じるかもしれないけど、すごく優しくて温かい人なんです。「あんた、キャッチの人とか無視しなさい!」とか、「あんた、足元気をつけなさいよ!」とか。

矢野 あれは完全にアドリブだったしね(笑)。

錫木 そうそう。アドリブだからこそ、矢野さん本人の優しさも滲みでています。

「裸になることに抵抗はなかった」(矢野)ゲイと女子大生とホストの三角関係を体現した矢野聖人と錫木うり。映画『車軸』に存在するリアルな歌舞伎町_9
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──恋人とは違う、ふたりの独特な関係性が魅力的でした。裸の心で真に他人と繋がりたいと願う真奈美に対し、心を裸にすることをためらう潤の対比も描かれますが、彼らの生き方はどう映りましたか?

錫木 友人や両親など、他人に対して「こうあってほしい」という期待や希望を抱くことは誰にでもあることだと思うんです。でもどうしても相容れない部分があるからこそ、真奈美のジレンマが大きくなっていく。そのことがすごく印象的に描かれていると思いました。

矢野 相手にすべてをさらけ出して生きることは難しいですよね。ただ、『車軸』に出てくる登場人物は特徴的で個性的な人間に見えるけど、実はとてもありふれた人のような気がして。ゲイだとか、3Pをするだとか、そういった部分もありますが、ひとりひとりの心情や家族に対する思いは、多くの人が持っているものだと思います。

錫木 まさに“歌舞伎町”って感じがしますよね。望遠鏡で覗いたら、たまたま潤と聖也と真奈美がただ歩いていて、ただ生きていただけ。ちょっと横にずらせば、私たちを含めて同じような人たちがいっぱいいると思います。


取材・文/松山梢 撮影/MISUMI ヘアメイク/矢野:阿部孝介(トラフィック)、錫木:くつみ綾音 スタイリスト/矢野:徳永貴士、錫木:中村もやし

『車軸』(2023) 上映時間:2時間/日本

「裸になることに抵抗はなかった」(矢野)ゲイと女子大生とホストの三角関係を体現した矢野聖人と錫木うり。映画『車軸』に存在するリアルな歌舞伎町_10


地方の裕福な家に生まれながら、その家系を“偽物”と嫌悪する大学生の真奈美(錫木うり)は、友人の紹介でゲイの資産家・潤(矢野聖人)と知り合う。新宿・歌舞伎町のホストクラブに連れられて行った真奈美は、潤ともマクラ(枕営業)するというナンバー2の聖也(水石亜飛夢)に興味を持つ。ある日、真奈美は潤に誘われてジョルジュ・バタイユの小説『マダム・エドワルダ』の朗読劇を鑑賞し、主人公を甘美なエロスへと導く神・エドワルダ(TIDA)の姿に、血が沸き立つような感動を覚える。その姿に自身の求めているものがあると確信した真奈美は、潤にその思いを告げる。そして潤に呼び出された真奈美は「聖也と、あんたとあたしの3人で、やってみない?」と提案される。

11月17日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国公開
配給:配給:CHIPANGU/エレファントハウス
©️「車軸」製作委員会 ©️小佐野彈
https://shajiku-movie.com/#

矢野聖人(やの・まさと)

1991年東京都生まれ。2010年にホリプロ50周年記念事業 蜷川幸雄演出の舞台『身毒丸』主演オーディションでグランプリを受賞。木曜劇場『GOLD』(2010年/フジテレビ)で俳優デビューを果たして以降、数々の話題作に出演。2014年には 、映画『最後の命』(松本准平監督)で柳楽優弥の親友でレイプ犯となる難役を熱演 。2018年には、映画『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』で初主演を務めた。現在放送中の『王様戦隊 キングオージャー』(テレビ朝日)に出演中。そのほか『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』などにもレギュラー出演。

錫木うり(すずき・うり)
1996年東京都生まれ。主な出演作に映画『めためた』(2023/鈴木宏侑監督)、『カオルの葬式』(2023/湯浅典子監督)『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』(2023/内田英治監督・片山慎三監督)、『エッシャー通りの赤いポスト』(2021/園子温監督)、『衝動』(2021/土井笑生監督)、ドラマ『サワコ〜それは果てなき復讐』2022)、YouTubeドラマ「東京彼女」9月号など。 本作には大々的なオーディションを通して選ばれた。出演待機作も控えており、今後の活躍が期待される。