新型コロナで露呈した日本の力不足、アメリカのコロナ対策トップは本気で闘った
米国政府の首席医療顧問を2022年12月に退任したアンソニー・ファウチ・国立アレルギー感染症研究所長などは、身の危険を感じるほどの嫌がらせをされても、ドナルド・トランプ前大統領との対立を恐れず感染症対策の専門家としての姿勢を貫いた。
2020年4月には、トランプ前大統領が打ち出した外出緩和策に反対を表明し、抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンを新型コロナ治療に使うことついても「科学的根拠がない」と却下した。
トランプ前大統領がバイデン大統領に敗れたのは、ファウチ氏がトランプ氏の新型コロナ政策の失敗を印象付けたことも大いに影響しているのではないだろうか。
ファウチ氏は、未だにトランプ支持者などにインターネット上で攻撃されているが、退任表明後のインタビューでは、「トランプ前大統領をはじめ、COVID-19の懐疑論に直面しながらも、どのように冷静さを保ってきたのでしょうか」という質問に対し、次のように答えている。少し長いが、その一部をここに引用したい。
私は科学者であり、公衆衛生担当者でもあるので、エビデンスとデータに従うしかありませんでした。これらは時間とともに進化し、私たちの対応も進化しました。新しい知識が得られるにつれて、ウイルスに対するアプローチを変えなければなりませんでしたが、これはトランプ前大統領とその周囲の特定の人々によって、非常に複雑化しました。
例えば、ヒドロキシクロロキンが有効な治療法であると根拠もなく前大統領が主張したことです。私は科学的かつ個人的な誠実さを保ち、アメリカ人、そして世界に対する責任を果たさなければならず、これについては公に反論する以外に選択肢がなかったのです。
そのため、問題が生じ、多くのトランプ支持者の目には私が敵に映るようになった。私に対して、私の家族に対して行われた脅迫は、前代未聞のものであり、容認できるものではありません。他の公衆衛生担当者も脅されているため、私1人ではありません。私がこの仕事を始めたとき、武装した特別捜査官から24時間態勢で警護される必要が生じることになるとは、決して思っていませんでした。
しかし、このような状況にもかかわらず、仕事に行きたくない、仕事をしたくないと思ったことは一度もありません。それどころか、このまま公衆衛生に専念しようという気持ちがさらに強くなりました。他のことは雑音や気晴らしに過ぎず、私はそれをほとんど排除することができたのです。
(『ランセット』2022年10月8日、トニー・カービー氏によるインタビュー)
私自身、米国やヨーロッパの国々の新型コロナ対策がすべて正しかったと主張するつもりはない。
ただ、世界中に新型コロナという同じウイルスがいっきに広がったために、これまで明確にはなっていなかった、厚生労働省の医系技官と、同省に重用される専門家会議のメンバーの先生方の力不足が露呈してしまったのは事実だ。
権力は科学的な正しさを保証しない。ガリレオ・ガリレイは、我が身を捨ててまで、科学的な正しさにこだわった。これが世界の科学者の規範だ。
世界では、専門家がネットワークを構築し、新型コロナ対策を推し進めている。
一方、結果的に多くの場面で厚生労働省の方針を支援し、独自の考えでガラパゴス的にやろうとした日本の専門家会議・感染症分科会の面々が迷走したのもむべなるかなだ。
文/上 昌広 写真/Shutterstock
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