少子化対策は増税の枠組みづくりのためなのか

田村 小倉さんは、2021年の衆院選で初当選したばかりの人です。たしかに、岸田さんが大きく掲げる課題のわりには、担当大臣が小粒すぎます。

石橋 岸田さんの矛盾している人事の典型例だと思います。2023年4月に発足した「こども家庭庁(*3)」の看板を「子供に書いてもらう」と、小倉さんは胸を張っていましたが、じつにくだらない。

*3 従来は内閣府や厚生労働省が担っていた子供を取り巻く行政分野の事務の一元化を目的として2023年4月1日に発足した行政機関。内閣府の外局。

矛盾している人事といえば、新型コロナ対策でも同じでした。

岸田さんは新型コロナ対策を「最重要課題」と言ってきましたが2021年10月に発足した第一次岸田内閣で、ワクチン担当相に起用したのは、堀内詔子さんでした。

菅さんがワクチン担当相に起用したのは、いろいろと問題はあるにしても、外相や防衛相など重要閣僚をいくつも歴任し、突破力には定評のある河野太郎さんでした。

なぜ「最重要課題」と言いながら、医療や厚生労働行政に詳しいわけでもない初入閣の女性を起用したのか。しかも2022年3月に東京五輪担当相の設置期限が切れ、閣僚枠がひとり減った際に退任させています。意味不明の人事です。

異次元の少子化対策で具体的な政策メニューが並べば、次は財源の議論に移ります。これこそが財務省の狙いだと見ています。

岸田政権に決定的に欠けているものとは。「異次元の少子化対策」「骨太の方針」…与党内で増税議論を続けたい財務省の思惑どおりの政策_4
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田村 なるほど、増税の枠組みづくりのための少子化対策なのか。いかにも、財務官僚が考えそうなことです。

「少子化のための財源として消費税率の引き上げが必要です」と識者にも言わせたりしています。布石ですね。

石橋 少子化対策をやるならば年数兆円規模となります。それだけの財源を捻出するには基幹税に手を付けるか、社会保障制度の枠組みを変えるしかありません。

私はずばり、狙いは消費税増税だと見ています。また10年前と同じく「社会保障と税の一体改革」と銘打って消費税増税の地ならしを始めるのではないでしょうか。

田村 そのシナリオを書いたのは、やはり財務省ですか。性懲りもないですね。「社会保障と税の一体改革」を口実にして、大型消費税増税で子育て世代を締めつけて少子化を促進しておきながら、また同じ手を使う。

石橋 岸田さんの腹心である、幹事長代理兼政調会長特別補佐の木原誠二さんの入れ知恵だと言われていますが、私は財務省が振り付けたと見ています。

2023年1月の伊勢神宮参拝後の記者会見で「異次元の少子化対策」をぶち上げたのも奇妙です。

前年暮れに防衛費増に伴う増税をめぐり、自民党内が紛糾したばかりです。今後、増税プランが吹っ飛ぶ可能性もあります。増税に向け、新たな枠組みをつくる必要があったのでしょう。

お正月ならば自民党議員も地元におり、騒げない。党三役も寝耳に水だったと聞いています。

自民党ではこども特例国債の発行も話がありましたが、骨太の方針には盛り込まれませんでした。国債発行を財務省が承知するはずがありません。

田村 こども特例国債の案は自民党のなかから出てきたものです。

石橋 自民党一流のブラフでしょう。

衆院選前に少子化対策をめぐり、財源論議はやりたくない。選挙で増税は批判を浴びるだけで票にはなりません。

文/田村秀男、石橋文登 写真/shutterstock

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『安倍晋三vs財務省』(扶桑社) 
田村秀男 (著), 石橋文登 (著)
岸田政権に決定的に欠けているものとは。「異次元の少子化対策」「骨太の方針」…与党内で増税議論を続けたい財務省の思惑どおりの政策_5
2023/11/17
¥1,980
304ページ
ISBN:978-4594095444
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第一章 安倍さんを目覚めさせたのは、何か?
第二章 財務省の政界工作
第三章 財務省の〝真の事務次官〟
第四章 財務省と新聞社、政治家
第五章 財務省と日本銀行
第六章 財務省とアベノミクス
第七章 財務省と岸田首相
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