実質賃金が減っている現状では、少子化にも歯止めはかからない

石橋 原因を素通りして対策を講じるなど、常識的に無理なことですが、それをやってしまっているのが骨太の方針と言えます。

田村 骨太の方針では、〈高い賃金上昇を持続可能なものとすべく、リ・スキリング(*1)による能力向上の支援など三位一体の労働市場改革を実行し、構造的賃上げの実現を通じた賃金と物価の好循環へとつなげる〉と〝対策〟を示しています。

*1 技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために新しい知識やスキルを学ぶこと。2022年10月初旬の臨時国会における所信表明演説で、岸田文雄首相はリ・スキリングに年間で1兆円の予算を投じると述べた。

しかし、単なる〝作文〟にしか、私には思えません。リ・スキリングをメディアの多くが「学び直し」と訳していますが、つまりは「職業再訓練」のことです。

若い世代なら「学び直し」で高い給与を得られる可能性は高いかもしれませんが、中高年にとって「学び直し」は簡単ではありません。

石橋 中高年切り捨てにつながりかねません。

しかも、「学び直し」で高給が得られないのは「自己責任」にされてしまいかねない。

岸田政権に決定的に欠けているものとは。「異次元の少子化対策」「骨太の方針」…与党内で増税議論を続けたい財務省の思惑どおりの政策_2

田村 もうひとつ、骨太の方針で大きく掲げているのが、異次元の少子化対策です。少子化が解消されるには、男女が結婚して子供を産み、育てることが不可欠になります。

結婚には安定した収入が必要だし、子育てにも安定収入は大事な要素です。子供が育つにつれ出費は増えるものですから、収入が増えていくことも必要です。

実質賃金が減っている現状では、子供を産む家庭も減るし、少子化にも歯止めがかからない。

2023年6月に政府が発表した「こども未来戦略方針(*2)」も、〈若者・子育て世代の所得を伸ばさない限り、少子化を反転させることはできない〉と断じています。

*2 政府が2023年6月に決定した、少子化対策強化の一環として児童手当や育児休業給付拡充などを目指すという方針

にもかかわらず、骨太の方針にも「所得を伸ばす」ための具体策が述べられていないわけです。

石橋 もっともらしいことは書いても、肝心の具体策がない。田村さんが言われるように、ただの「言いっ放し」にすぎない。