フラッシング反応とがんのリスク

お酒を飲んで顔が赤くなることをフラッシング反応と呼び、少量の飲酒でもこうした反応が現れる人を「フラッシャー」という。「flush」とは、「顔が紅潮する、ほてる」といった意味の英語だ。

フラッシャーの多くはALDH2の働きが弱いとされ、アセトアルデヒドの分解が遅いために、「酔い」の症状を呈しやすい。実はALDH2の働きが弱い、またはない(低活性または非活性)タイプは東アジアの人々(黄色人種)に多く、フラッシング反応は「アジアンフラッシュ」と呼ばれることもある。

特に日本人は世界的に見てもトップクラスにALDH2が低活性または非活性型が多く、その割合は4~5割に上る(2)。とにかく日本人には、「お酒に弱い人」が多いのだ。宴会に参加したことがある日本人は、周囲の半数近い人たちが顔を赤くしている様子を見ても、見慣れた光景だと感じるはずである。

ALDH2の働きが弱いタイプでも、長年の間、習慣的に飲酒をすれば体に「慣れ」が生じ、不快な症状を感じにくくなる。しかし酵素の働きが変わるわけではなく、体にアセトアルデヒドが蓄積しやすいのは変わらない。

「訓練すればお酒に強くなる」ことはない…お酒を飲んで顔が赤くなる日本人が無理して飲むと例外なく食道ガンのリスクが生じる遺伝的理由_3
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飲酒は食道がんの最大のリスクだが、特にフラッシャーは食道がんになりやすいことが知られている。「少量の飲酒で顔が赤くなる」または「飲み始めた頃の1〜2年間は顔が赤くなる体質だった」という人は、フラッシャーである可能性が高い(3)。

「どのくらい効率良くアルコールを無害な物質にまで代謝できるか」は、人によって違う。体が「お酒に弱い」にもかかわらず、多量に飲酒するのは禁物なのである。

(1)Masaryk University「Mass Methanol poisoning in the Czech Republic in 2012」https://www.muni.cz/en/research/publications/1358363
(2)"ALDH2, ADH1B, and ADH1C genotypes in Asians: a literature review" Eng MY, Luczak SE, Wall TL. Alcohol Res Health. 2007;30(1):22-7.
(3)厚生労働省e‒ヘルスネット「フラッシング反応」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-008.html)

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