介護をする家族の負担を減らすという視点

ここで、不都合な真実があります。それは、介護のプロには、非常に優れた人もいれば、そうでない人も多数いるということです。

信じられないかもしれませんが、運が悪いと、むしろ、介護離職をすすめる介護のプロさえいます。最新式のマシンガンを持っているベテランの傭兵もいれば、細い木の枝しか持っていない新人の傭兵もいるということです。

ただ、誤解を避けるために付け加えておけば、ここには、そもそも日本の介護保険制度の設計上の問題があるのです。根本的には、介護のプロの問題ではありません。

重ねて申し上げますが、日本の介護保険制度は、世界最高と言えるものです。これだけの制度を設計し、実装してきた人々がいるからこそ、仕事と介護の両立ができ、ビジネスケアラーが成立するのです。それでもなお、問題もあるということです。

日本の介護保険制度は、介護が必要になった要介護者のために誕生しました。このため、制度は、要介護者の日常生活を支援することを目的として設計されています。

しかしながら日本の介護保険制度の実態からは、介護をする家族の負担を減らすという視点がスッポリと抜け落ちてしまっているのです。

たしかに、介護保険制度の目的の背景として介護離職の問題が語られてはいます。しかし、介護離職を防止しても1円にもならない設計になっていることは事実として認められなければなりません。

このため、介護のプロの中には「要介護者を支援することでお金をもらっているのであって、介護をする家族の負担を減らすことからお金を得ているわけではない」と考える人も出てきます。繰り返しになりますが、実際に、介護のプロが介護をする家族の負担を減らしても、1円ももらえません。

さらに、日本の社会福祉のための財源が枯渇しつつあることから、介護のプロには、「介護サービスを提供しすぎないように」と、自治体から常に強烈なプレッシャーがかかっています。

こうした背景から、介護と仕事の両立を図るために介護サービスを使うということに難色を示す介護のプロも存在するくらいです。

「介護知識を持たない介護者(家族)もまた社会的弱者」家族の負担を減らす視点に欠ける日本の介護保険制度の設計エラー_3

都市部では、介護人材不足が深刻に

社会福祉のための財源が足りなくなってきていますので、介護のプロには極端な低賃金労働が強いられ、常に人材不足です。

特に都市部においては、賃金の高い、介護以外の仕事がたくさんあります。そうした環境では、介護人材を確保することが困難になるのは当然でしょう。右ページの地域別の介護人材の有効求人倍率を見てください。

有効求人倍率の全体の平均1.46倍に対して、介護人材の平均は倍以上の3.97倍となっています。それだけ介護人材は見つからず、不足しているということです。

そして人口が密集する都市部では、特に、介護人材の有効求人倍率が高くなっているのが目立ちます。「都市部だから大丈夫」というのは、介護においては正しくありません。

都市部のほうが厳しいと理解する必要があります。少子高齢化が進む日本では、こうした介護人材不足の問題は、今後ますます悪化していくことになるでしょう。

このような、過度の人材不足を背景として、日本の介護においては、まず、身寄りのない高齢者の福祉が優先されます。

同時に、心配する家族がいる要介護者の優先順位は、残念ながら低くなってしまうのです(家族が介護をすればよいという判断につながるので)。

今後、少子高齢化が進むとともに、この状況はさらに悪化していくので、ますます、家族の負担を下げるなどとは言っていられなくなります。

特に都市部では、介護のプロに介護をお願いしたくても、そもそも介護のプロがいないという状況になっていくでしょう(介護の生産性が極端に上がらないかぎり)。